何が起きているか

AI企業のUIやロゴで、TimesやTimes New Romanに代表されるセリフ体(明朝系)の採用が相次いでいます。AnthropicのClaudeはデフォルトでセリフ体を使い、背景もわずかに茶色がかった「本のページ」を模した配色で、印刷物を読むような感覚を演出しています。Perplexity、Runway、Manusも同様の路線です。

Writerでありタイプ実践者のKeya Vadgama氏は、自身のSubstackでこの動きを「セリフ・ルネサンス」と呼びました。背景にあるのは、AI出力を見抜こうとする一般読者の反発です。em ダッシュや「3つの法則」、「Xではなく、Y」といった構文がAIっぽさの目印として警戒されるなか、書体までもが「AIネイティブ・デザインの定型」として識別され始めているのです。

なぜセリフ体なのか

セリフ体はカリグラフィに起源を持ち、人の手で文字を流れるように書く感覚と結びつきます。一方、Arial、Calibri、Helveticaなどのサンセリフ体は「クリーンで機械的すぎる」と評され、AI企業が忌避する対象になっています。1930年代に英Times紙のために作られたTimes New Romanは、Encyclopedia Britannicaの組版にも使われ、学術性・権威性のイメージを背負ってきました。

つまりセリフ体は、「私たちはAIですが、作っているのも使っているのも生身の人間です」というメッセージを視覚的に発信する装置です。Vadgama氏は「人々に怖がられないように自社をどう位置づけるかが大きい」と指摘します。

「tasteslop」という揶揄

一方で、この潮流は「tasteslop(味のあるフリをした生成AIデザイン)」と揶揄されています。批判する声は「ジェネリック」「非常に醜い」と切り捨てます。米国務省ではマルコ・ルビオ国務長官がCalibriを「インフォーマル」と断じ、Times New Romanへの回帰を指示しました。書体選択は単なる審美ではなく、組織のスタンスを象徴する記号として政治化しつつあります。

出典: WIRED

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業の経営者・事業責任者にとって、この潮流は「AI機能のUIをどう見せるか」という即時の論点です。

SaaS・受託開発の現場では、ChatGPTやClaudeのAPIを組み込んだ機能を顧客に提示する際、ゴシック体一辺倒のUIだと「いかにもAI」「冷たい」と受け取られかねません。社内提案資料や顧客向け画面で、AI出力部分だけ明朝系に切り替えるなどの微調整は、心理的受容を変える安価な打ち手になります。

ECや事業会社のマーケティング部門では、AI生成のコピー・バナーが「tasteslop」として一般消費者に見抜かれ始めている事実が重要です。書体・em ダッシュ・「3つの法則」といった「AIの指紋」を意識的に外すブランドガイドラインの更新が必要です。逆に、信頼性を訴求したい金融・士業系では明朝体への寄せが効くでしょう。

経営判断としては、ブランディングを「AIっぽさを隠す」方向で揃えるのか、むしろAI活用を堂々と訴求するのかの旗を立てるべき局面です。中途半端な「人間のフリ」は最も嫌われます。

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