何が起きているか
TechCrunchのポッドキャストEquity(Kirsten Korosec、Anthony Ha、Sean O’Kane)が、AI調達ラッシュとは逆方向に進む起業家たちの動きを「together tech」と名付けて議論しました。家庭用フィットネス機器Mirrorで知られるBrynn Putnam氏は、対面ゲームや社交体験で人を集める新興企業Boardを立ち上げ資金調達済み。さらに、自作PC「Cyberdeck」を作り「外に出よう(touch grass)」と呼びかけるクリエイターたちがSNSでバイラル化しています。
なぜ「反AI」ではないのか
Equityの議論で重要なのは、この潮流が「AIフリーブラウザ」のような単なるバックラッシュとは違うと整理されている点です。AIを拒絶するのではなく、人々が「より人間らしいもの」へ自然に引き寄せられている現象だと捉えられています。同じ回でAnthropicの極秘IPO申請やAlphabetの800億ドルAI調達も扱われており、巨大マネーが大手に還流する構図の裏側で、対極の市場が芽吹いていることが浮き彫りになります。
何が新しい論点か
生成AIが画面の中の体験を効率化し続けるほど、画面の外の「非効率で身体的な時間」の希少価値が上がります。Boardのような対面体験事業やCyberdeckのような物質的な所有体験は、AIの代替物ではなく、AIが普及したからこそ商品価値を持ち始めた領域だと読むべきです。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本の事業会社の経営者にとって、この潮流は二重の含意を持ちます。第一に、BtoCのEC・SaaS事業者は「AI機能の追加」一辺倒の差別化に賞味期限が来ます。アプリ内の滞在時間最適化に走るほど、ユーザーは画面疲れで離脱します。飲食、フィットネス、リテール、教育、エンタメ業界の役員は、Boardが示すように「集まる理由をデザインする」事業への投資余地を再評価すべきです。
第二に、受託開発・SaaSベンダーは、顧客企業の福利厚生・社内コミュニケーション・オフライン研修領域に、AI疲れを前提としたプロダクトを提案できます。AlphabetやAnthropicに資金が集中する構図は変わらないものの、国内中堅企業の予算が向かう先は「従業員の身体性を取り戻す体験」にシフトし得ます。日本の役員は、自社プロダクトのKPIから「画面滞在時間」を外し、「オフライン送客数」「対面接触の質」を新指標として議論する時期に来ています。