何が起きたか
ベイン・アンド・カンパニーが、PEファンドのデューデリジェンス(投資前調査)の一環として、買収対象企業の製品をAIで「バイブコーディング」(自然言語の指示で雑にコードを生成する手法)し、模倣品を作っていることが明らかになりました。2023年は専門のエンジニアチームの仕事でしたが、今では一般のコンサルタントが日常的に行う作業に変わっています。
再現された模倣品は、対象企業の技術がどれほど真似しやすい/しにくいかを可視化し、製品の今後の進化方向を推測する材料にもなります。ベインのレベッカ・ブラック氏は「2Dで見るのと3Dで見るくらいの違いがある」と表現しています。
なぜ重要か
この動きは、エンタープライズSaaSの「堀(モート)」の前提が崩れつつあることを示しています。SalesforceやServiceNowは年初来で時価総額の3分の1超を失い、KPMGによればPE主導のテック・通信・メディア案件の総額は2025年Q4比で2026年Q1に69%減少しました。シリコンバレーのPE幹部2人は、すべての投資対象でAIリスクの精査を強化し、案件を絞り込んでいるとFTに語っています。
「コードが堀ではない」という残酷な問い
ベインが見ているのは、「そのソフトの防御力の本体は本当にコードなのか、それとも別の何か(顧客基盤、データ、業務適合性)なのか」という点です。LLMで数日で再現できてしまう機能は、もはや事業の競争優位とは呼べません。実際、ベインが作った分析プラットフォームの模倣品は、あるPEの入札撤退の決定打となりました。買う側がAIで「同等品の試作」を持って交渉に来る時代に、売る側は何を価値として提示するのかが問われ始めています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本のSaaSベンダー、特にホリゾンタル系のツールを提供する事業者にとって、これは見出し以上に深刻な警告です。これまで「機能の数」「画面の作り込み」を競争優位としてきたプロダクトは、AIで数日のうちに「それっぽい代替品」が作られる対象になりました。役員が今すぐ問い直すべきは「自社のARRは、コードが守っているのか、それとも顧客の業務埋め込み・データ蓄積・規制対応・販売網が守っているのか」という点です。
受託開発・SIerにも同じ問いが及びます。クライアントのCFOやPEが投資判断の場で「同じものをAIで作れるなら、なぜこの開発費を払うのか」と尋ねる場面は近い将来、確実に増えます。事業責任者は、提案書から「実装難度」を競争軸として外し、ドメイン知識・運用責任・継続改善といった「コード以外の堀」を言語化し直す必要があります。M&Aを検討する日本企業のCVCも、対象企業の技術評価に同様のバイブコーディング検証を組み込まなければ、過大評価のつかみ取りリスクを負うことになります。