何が出たのか

Mistral AIが11月の火曜日にOCR 4を公開しました。約15か月で4世代目となる文書知能モデルで、ページを「整形済みテキスト」に変換する従来型と異なり、バウンディングボックス、ブロック種別(タイトル・表・数式・署名など)の分類、単語ごとの信頼度スコアを含む構造化表現を返します。PDF・DOC・PPT・OpenDocumentに対応し、170言語・10言語グループをカバー。価格は1,000ページあたり4ドル、バッチAPI利用で2ドルまで下がります。

MistralのAPI、Mistral StudioのDocument AI、Amazon SageMaker、Microsoft Foundryから利用可能で、Snowflake Parse Documentにも近く対応予定です。

なぜいま重要か

本機の最大の意味は精度より「主権」です。OCR 4は単一コンテナとして顧客自身のインフラに配備できるため、米国管轄のクラウドAPIを利用できない金融・医療・法務・公共領域の企業にとって、現実的な選択肢が増えました。EU AI Actの制裁規定が8月2日に発効する直前というタイミングも見逃せません。

6月12日、米商務省は国家安全保障に基づく輸出規制を発動し、AnthropicのFable 5とMythos 5へのアクセスが外国籍ユーザーに対して遮断されました。6月24日時点でも停止が続き、予測市場は7月1日までの復旧確率を57%としています。基盤AIが「ある日突然止まる」リスクが現実化したわけです。

性能と競合

Mistralは独立アノテーターによる600本超・12言語以上の文書を用いた人手評価で平均勝率72%、OlmOCRBenchで85.20、OmniDocBenchで93.07を報告。ただし公開リーダーボード上ではChandra OCR 2などのオープンモデルに次ぐ3位です。Baiduも6月22日に30億パラメータ・MITライセンスの「Unlimited-OCR」を投入、24時間でGitHubスター1,800を獲得しており、市場はオープン陣営とプロプライエタリ陣営の二正面戦争に入っています。

ユーザー事例ではRogoのAidan Donohue氏が「同等精度を約8分の1のコスト・17分の1のレイテンシで実現」、AnaquaのIvan Mihailov氏が「従来比約4倍速」と評価しています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業にとって本件は二つの示唆を持ちます。第一に、AnthropicのFable 5/Mythos 5停止は「米国製モデルは米国の安全保障判断で一夜にして使えなくなる」ことを証明しました。生成AIを基幹業務に組み込む金融機関、医療系SaaS、官公庁向け受託開発の経営者は、調達基準にBCP観点を明示すべき段階に来ています。具体的には、主要LLM/OCRについて「自社インフラで動く同等品を6か月以内に切替可能か」を契約交渉と技術選定の両面で問うべきです。

第二に、文書処理を内製する事業者(法務テック、医療請求、不動産・保険、行政DX)にとって、1,000ページ4ドル・バッチで2ドルという価格は、Google Document AIやABBYY中心の既存スタックを見直す合理的根拠になります。特にバウンディングボックスと信頼度スコアはRAG・コンプライアンス監査ログとの相性が良く、社内文書検索や規程管理SaaSのアーキテクチャを「フラットテキスト前提」から「構造化抽出前提」へ更新する好機です。CTOは今四半期中にPoC予算を確保し、SageMaker/Foundry経由とオンプレ配備の両方を並走検証することを推奨します。

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