何が新しいか

Yealinkの子会社Yeasoundが、耳掛け型(BTE)のOTC補聴器市場に「RIC800」と「RIC700」の2モデルで参入しました。上位機のRIC800はAIノイズリダクション、自動的に音声へ焦点を合わせる機能を備え、AndroidとiOSの両方に対応します。下位のRIC700はApple専用です。本体重量は1台あたり2.76gで、競合のJabra Enhance Select 700よりわずかに重い程度に抑えられています。

アプリ体験と聴力テスト

セットアップは「iYeasound」アプリから行い、簡略化されたホーム画面が特徴です。アプリ内の聴力テストは約5分で完了し、競合の10分以上と比べて短時間で済みます。テスト結果はオージオグラムにプロットされますが、既存のオージオグラムをインポートできず、再テスト以外で結果を手動編集できないという制約があります。

5つのモードとAIの使いどころ

環境モードは「Adaptive」「General」「Noisy」「Music」「Outdoors」の5種類。Adaptive以外のモードでは、低・中・高音域の調整、3段階のノイズリダクション、マイク指向性(全方位/前方向/集中)を個別に設定できます。AIを有効にするAdaptiveモードでは音量以外の調整が封じられるため、レビュアーは手動調整可能なGeneralモードを好みました。閉型イヤーチップ使用時、Generalモードのほうがヒスノイズや低音の膨らみが少なかったといいます。

残る課題

ノイズキャンセリング性能は予想以上に高く、歪みなく大音量まで出せます。一方で中音域、そして程度は軽いものの低音域に「こもり感」が残る点は明確な弱点です。AIに任せきるか、自分で細かく追い込むかでユーザーの満足度が分かれる製品といえます。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本のヘルステック市場への含意

RIC800の登場は、日本のヘルスケア・補聴器流通に関わる事業者にとって重要なシグナルです。日本では補聴器が依然として「専門店で対面販売される高額医療機器」というモデルが主流ですが、米国のOTC解禁を契機に、通信機器メーカーが家電カテゴリとして参入する流れが鮮明になっています。Yealinkは25年にわたり業務用ヘッドセット・電話機を手掛けてきた音響ハードのプロであり、補聴器専業ではない企業が「音響+アプリ+AI」の組み合わせで市場を取りに来ている点が脅威です。

国内の補聴器販売事業者・家電量販・ECモール運営者は、「対面フィッティングの価値をどう再定義するか」を急ぐべきです。5分で完了するセルフ聴力テストやアプリ調整が一定の品質に達した今、専門家の付加価値は「初期診断」ではなく「アプリで詰め切れない中音域の調整」「医療機関への橋渡し」へとシフトします。SaaS型のフィッティング支援、サブスク型の保守、Apple/Androidエコシステムとの連携設計が次の競争軸です。受託開発各社にとっても、医療機器規制(QMS・薬機法)対応とコンシューマーUXを両立できるチームが希少資源となり、案件単価を引き上げる好機です。