何が起きたか
Import AIが2026年7月時点の複数の指標を整理しました。まずGPUカーネル生成では、Fableが提出したメガカーネルがKernelBench-Megaでベンチマーク維持者から「初の本物かつ最速」と評価されました。RTX PRO 6000 Blackwell上でPyTorchベースラインに対し18.71倍、Claude Opus 4.8(Triton)の14.4倍、GLM-5.2の11.14倍、GPT 5.5の4.34倍を上回っています。torch.profilerによれば、Fableのコードはデコードトークンあたり協調カーネル起動が1回のみで、他の高得点解法が4〜14回を要していたのに対し圧倒的に少ない起動回数を実現しました。
次にCenter for AI Safety(CAIS)とScale Labsが運営するRemote Labor Indexでは、3D・CAD、建築、グラフィックデザイン、映像、音声、データ分析、Webアプリなど実際のオンライン受託案件を対象に、AIの完遂成功率が2025年10月の2.5%から2026年7月に16.1%へ上昇しました。7月時点の内訳はFable 5が16.1%、Opus 4.8が8.3%、GPT-5.5が6.3%です。タスク例には「マーキーズカット中石にすげ替えた婚約指輪の3Dモデル制作」「Skyline Tree Services向け60秒フラットデザイン2Dアニメ広告」「地籍図から起こす浴室の平面図とレンダリング」などが並びます。
長時間タスクの壁
xlang-aiらが公開したOSWORLD 2.0は、複数プログラムをまたぐ長時間タスク108件(うち自前ホストのWeb 31件)で構成され、タスク中央値は約1.6時間、旧OSWORLDの2分中央値の約48倍に及びます。全体の69.6%は熟練ユーザーでも1時間超を要する想定です。対象ソフトはSlack、LinkedIn、Shortcut、REAPER、MuseScore、WPS、GitLab、Overleaf、LabPlot、Zotero、AWSに加え、保険請求・ビザ申請・カンファレンス管理を模したポータルまで広がります。ここで最強設定のClaude Opus 4.8(最大思考+バッチツール呼び出し)ですら、二値正答率20.6%、部分正答率54.8%にとどまりました。OSWORLD 1.0では2025年7月時点で約30%、2026年6月にMiniMax M3が約75%まで到達していた点と対照的で、「隠れた状態の復元」「多数の対象追跡」「矛盾情報の解消」「要件変更への適応」で性能が急落することが明示的に指摘されています。
中国の物流基盤に組み込まれるAI
JDは自社の在庫管理システム「Oxygen AI Item Center(Oxygen AIIC)」の詳細を公開しました。7億ユーザー、数百万マーチャント、数百億SKUを抱える巨大カタログを、HuaweiのAscend NPU上で数万カテゴリ・1日あたり数億件の商品更新として処理しています。設計の柱は、人間とAIの協働によるオントロジーエンジニアリング、「セマンティック検索の後に判別を行う」二段構え、自己進化する商品理解LLM/VLM、そして日次・分次・秒次のパイプラインを束ねる「Unified item tunnel」です。判別段階でモデルは商品がオントロジー項目と一致するかだけを判定するため、ハルシネーションが抑えられ、オントロジー更新にモデル再訓練が不要になる設計となっています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
事業会社は何を読むべきか
注目すべきは「短時間・専門特化タスク」と「長時間・状態管理タスク」の間で急速に開く格差です。Fableのカーネル生成のように閉じた最適化問題ではAIが人間の熟練実装を超え始める一方、OSWORLD 2.0が示す通り、1時間超の複数アプリ横断業務ではトップモデルでも20.6%しか完遂できません。
日本のEC・SaaS事業者にとって直近効くのは前者です。JDのOxygen AIICのように「オントロジー+セマンティック検索+判別」の分業でSKU管理を自動化する構造は、楽天・Amazon出店を抱える国内EC、モノタロウ型MRO、SaaSのマスタ整備にそのまま応用できます。特に「モデル再訓練なしでオントロジーを更新できる」設計思想は、商品追加が日次で走る事業の運用コストを直撃します。
一方、受託開発・BPO・広告制作を営む企業は、Remote Labor Indexの16.1%という数字を「まだ8割は人間の仕事」ではなく「1年で4倍伸びる領域」として読むべきです。60秒アニメ広告や3Dモデリングといった単価数万〜数十万円の案件は、来年には収益源として崩れる想定で、上流の要件定義・監修・複数案件のディレクションへ人員を移す時間はもう長くありません。長時間・多アプリ業務は当面人間側に残るという事実は、業務設計の切り分けにそのまま使える情報です。
関連リンク
- KernelBench Mega (official site)
- Remote Labor Index
- A Significant Increase in Digital Labor Automation (Center for AI Safety)
- OSWorld 2.0: Benchmarking Computer-Use Agents on Long-Horizon Real-World Tasks (official paper website)
- OSWorld 2.0: Benchmarking Computer-Use Agents on Long-Horizon Real-World Tasks (xlang-ai, OSWorld-V2, GitHub, pdf)