何が起きたか
レストランで自分の姿にビクッと反応するハーランドの動画がSNSで爆発的に広がりましたが、これは本人ではなくAI生成のディープフェイクでした。ファクトチェックで6月中旬に中国のコメディアン、ジン・ロンがTikTokに投稿したスラップスティック風スキットが元素材だと突き止められた後も、Xでの1投稿だけで3100万回を超える再生を記録し、訂正情報が出た後も拡散が止まりませんでした。
中国ではハーランドは「Habao(ハーちゃん)」の愛称でミーム化しており、漢方系飲料のCMに出演し、中国語を試み、公式のDouyinとWeiboアカウントでも数百万人規模のフォロワーを短期間で獲得しています。ピッチ上の「破壊者」と、私生活の「ゴールデンレトリバー的な人柄」のギャップがネタとして機能しているのです。
なぜ重要か:選手が「作品」になる
注目すべきは、視聴者が「これはフェイクだ」と分かった上で共有し続けている点です。@deeptomcruiseのトム・クルーズ動画(2021年)、ドレイクとザ・ウィークエンドを模したAI楽曲(2023年)、バレンシアガの法王画像(2023年)といった過去の事例と同様、真偽よりも「面白さ」「らしさ」が消費の駆動力になっています。
AIスポーツコンテンツ企業WSC Sportsのレポートによれば、Z世代はチームより個々のアスリートに強い一体感を抱きます。Oliver WymanはSNS上のアスリート発コンテンツこそがZ世代のスポーツ関与の最大ドライバーだと指摘します。ファンが公式設定(canon)の隙間を埋めるために作る「fanon(二次設定)」がAIによって無限に量産可能になり、選手はアニメキャラのようにロア・エピソード・キャラクター性が積み上がる「作品」として消費される段階に入りました。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業の役員が今考えるべきこと
タレント・IP起用企業(飲料・アパレル・EC)への直撃: ハーランドの中国での「Habao」化は、契約したアンバサダーがブランドの意図を超えて二次創作の素材にされることを意味します。日本の広告主・スポンサー企業は、契約書の肖像権条項に「AI生成物・ディープフェイクを含む二次利用への対応範囲」を明記しない限り、想定外のミームに商品が巻き込まれ、また逆に「望ましいミーム」が発生しても法的にコントロールできない状態に置かれます。
スポーツビジネス・DAZN級配信勢: Z世代が「チームではなく個人」に接続する動向は、放映権中心の事業構造への警鐘です。選手個人のショート動画・SNS二次流通を前提にした権利設計と収益分配モデルへの再交渉が必要になります。
受託開発・SaaS事業者: 「ファンが作るfanon」を安全に流通させるモデレーション基盤、権利者への収益分配SDK、真偽表示APIには実需が立ち上がります。特にBtoBのブランドセーフティ領域は、待たずに提案営業を仕掛けるべきタイミングです。