何が起きたか

OpenAIは2026年7月9日午前、新モデル群「GPT-5.6」を一般提供開始しました。小さい順にLuna・Terra・Solの3サイズ構成で、100万トークンあたりの入力/出力価格はLunaが$1/$6、Terraが$2.50/$15、Solが$5/$30です。参考までにClaude Opusシリーズは$5/$25、Claude Fable 5は$10/$50となっています。

ただし、価格の見方は単純ではありません。同じタスクでもモデルによって消費する「推論トークン(reasoning tokens)」の量が大きく異なるため、100万トークンあたりの単価だけでは実コストを比較しにくくなっています。実際、ペリカンを描かせる同一課題でも、最安のgpt-5.6-luna(推論なし)は0.71セント、最高のgpt-5.6-sol(max推論)は48.55セントと、推論設定次第で数十倍の開きが出ています。

なぜ重要か

OpenAIが最も強調するのは、長時間動作するエージェント性能です。55分野の専門的ワークフローを評価する「Agents’ Last Exam」で、Solは53.6点の新記録を出し、Fable 5(適応的推論)を13.1点上回りました。中程度の推論設定でも、推定コスト約4分の1でFable 5に11.4点差をつけ、下位のTerra・Lunaも約16分の1のコストでFable 5を上回るとしています。「1トークンからより多くの有用な仕事を引き出す」ことを訓練目標に据えた、という説明です。

一方で、コーディング評価「SWE-Bench Pro」ではFable 5の80%に対しSolは64.6%と負けています。OpenAIは発表前日に別記事を公開し、このベンチマークを監査した結果「約30%のタスクが壊れている」と推定、開発者に結果の精査を促しています。都合の悪いスコアには測定側の欠陥を指摘する構図で、額面通りには受け取りにくい部分です。

論点:ベンチマークより実用感

Solに早期アクセスした著者は「非常に有能だが、複雑なコーディングでは今のところFableを超えてはいない」と評しています。ベンチマークの数字と実務の手応えにはズレがあり得るということです。

注目すべきはむしろ新API機能です。JavaScriptを組み立てて実行しツール呼び出しを束ねる「Programmatic Tool Calling」、並列作業のためにサブエージェントを立ち上げる「Multi-agent」、Anthropic流の明示的キャッシュを持ち込む「Prompt cache breakpoints」、画像を前処理でリサイズさせないdetail: originalなどが追加されました。Programmatic Tool Callingは、1ターン内でWeb検索結果に対してコードを実行できるAnthropicの動的フィルタリング機構に近い発想です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

事業会社が読むべきは「Solが最強か」ではなく「安いモデルがどこまで実用に耐えるか」です。TerraやLunaが約16分の1のコストで前世代上位に迫るなら、これまでコスト面で断念していたエージェント運用——受託開発の一次調査、SaaSの問い合わせ自動処理、ECの商品説明生成やレビュー要約——の採算ラインが一段下がります。SaaS事業者は、上位モデル固定だった処理を推論設定込みで再設計すれば、原価率を数割単位で改善できる余地があります。

ただしベンチマークの読み方には注意が必要です。SWE-Bench ProではFable 5が勝ち、OpenAI自らが「約30%のタスクが壊れている」と反論している。ベンダーの主張スコアで内製方針を決めるのは危険で、自社の実タスクで小さく検証(いわゆるeval)する体制こそが差になります。CTO・事業責任者は、モデル選定を「発表時の一括決定」から「タスク単位でLuna/Terra/Solと他社を測り分ける」運用に切り替えるべき局面です。

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