何が起きたか

独立系のAI評価プラットフォームArtificial Analysisが、OpenAIの新モデル群GPT-5.6を評価した結果を公表しました。総合力を測るIntelligence Indexでは、最上位のGPT-5.6 Sol(max)が59点。首位のClaude Fable 5(max)の60点にわずか1点差で並び、Claude Opus 4.8(56点)、GPT-5.6 Terra(55点)、GPT-5.5(55点)を上回っています。

より実務に近いCoding Agent Indexでは順位が入れ替わります。OpenAIのCodex環境で動作するSolが80点で首位。Terraが77点、Claude CodeでのFable 5が77点、Codex上のGPT-5.5が76点と続きます。オフィス業務を模したAA-Briefcaseでは、Solが全モデル中で最高の「Presentation Elo」を獲得しつつ、総合順位ではFable 5に届きませんでした。

効いているのは点数よりコスト

本当のニュースは1点差ではなく価格です。Solのタスク単価は1.04ドル。Fable 5(max)の2.75ドルに対して約3分の1に収まります。下位のTerraはSolより50%安い0.55ドル、Luna は80%安い0.21ドル。トークン単価(100万トークンあたり入力/出力)はSolが5ドル/30ドル、Terraが2.50ドル/15ドル、Lunaが1ドル/6ドルで、キャッシュ読み出しには90%の割引が効きます。GPT-5.6では初めてキャッシュ書き込み料金が導入され、これも実効単価を押し下げる方向に働いています。

Artificial Analysisは、Solが「Intelligence対タスクあたり出力トークンの新しいパレート境界を定義した」と評しました。サム・アルトマン氏も、Solは同等性能のモデルより出力トークンの消費が少なく、エージェント的なコーディングでは最大54%少ないと述べています。つまり単価が安いだけでなく、同じ仕事を終えるのに吐き出すトークン自体が減る。単価×消費量の二重の効きが、3分の1という数字の正体です。

値下げ圧力は外から来ている

この価格設定は、OpenAIが一人で決めたものではありません。中国発のオープンモデル、MetaのMuse 1.1、xAIのGrok 4.5が下から価格を突き上げ、既存の大手ラボは料金引き下げを迫られています。OpenAIは依然としてそれらより高価ですが、今回のSolで矛先はAnthropicに向きました。ベンチマークで首位を守るFable 5は、価格で真正面から挟まれた形です。Anthropic側の応手が次の焦点になります。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業の実務に効くのは「1点差」ではなく「1.04ドル対2.75ドル」です。

すでにLLMを本番投入している事業会社——ECのCS自動応答、SaaSの要約・分類機能、社内文書検索——は、原価の見直しを今四半期の議題に載せるべきです。推論コストがそのまま粗利を削る構造の機能なら、Solへの切り替えで単価が3分の1、さらに出力トークンが最大54%減るなら、実効コストは半減どころではありません。キャッシュ読み出し90%割引は、同一プロンプトを大量に叩くバッチ処理・定型応答と相性が良く、設計次第で差はさらに開きます。

受託開発・SIerにとっては見積もり前提の崩壊です。「AI機能のランニングコスト」を根拠に取っていた保守費は、顧客に先に知られる前に自分から改定を提案した方が信用を守れます。

ただし乗り換えの即断は危険です。Coding Agent IndexでSolが80点を取ったのはCodex環境で、Fable 5の77点はClaude Code環境。つまり評価はモデル単体ではなくエージェント環境込みです。自社ワークフローがどちらの環境に寄っているかで結論は変わります。打ち手は、①主要ユースケースで自社評価セットを作り、Sol・Terra・Fable 5を実タスク単価で比較、②機能ごとにモデルを使い分ける(重い推論はSol、定型処理は0.21ドルのLuna)、③プロバイダを差し替え可能な抽象層を今のうちに入れる——の3点です。Anthropicの値下げ応手はほぼ確実で、半年後にまた最適解が動きます。特定モデルに配管を固定した会社が、次の価格改定で一番損をします。

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