何が起きたか

Appleは、OpenAIに在籍する元Apple社員による「一連の企業秘密の窃取」があったとする訴状を提出しました。被告として名指しされたのは、Jony Ive氏のハードウェアスタートアップで、OpenAIが2025年に買収したIO Products、OpenAIの最高ハードウェア責任者Tang Tan氏、そして2026年1月にAppleからOpenAIへ移ったChang Liu氏です。

訴状によれば、Liu氏はApple退社後もAppleのシステムにアクセスし、未発表製品に関する情報、エンジニアリングのプレゼン資料、技術仕様、プロジェクトの独自データなど、機密のハードウェア関連ファイルを数十件ダウンロードしたとされます。さらにLiu氏は、OpenAI入社前に元同僚へファイルの複製方法や、Appleのセキュリティチームに「トラブルを避ける」やり方を指南し、検知を逃れるためにLine Messengerで連絡を取ろうと持ちかけたと主張されています。

Tang Tan氏についてAppleは、退社前にApple取引先(サプライヤー)の情報を自分宛にメールし、OpenAIの採用面接でApple社員に機密情報を求めるなど、「Appleの機密情報を計画的にOpenAIの利益のために用いた」としています。AppleはさらにOpenAIが、面接に「CAD/設計成果物」や「プロトタイプ」を持参するようApple社員に伝えていたとも述べています。

なぜ重要か

この訴訟の本質は、単なる個人による情報持ち出しではなく、「人材の移動そのものを通じた技術の移転」という構図にあります。Appleは現在400人超の元Apple社員がOpenAIで働くと主張しており、AI大手が消費者ハードウェアへ本格参入する局面で、Appleが最も守りたい未発表デバイスのノウハウが競合の中枢に流れ込むことへの強い警戒がにじみます。

訴状はLiu氏の契約違反を「退社後の義務に真っ向から違反した」と明確・意図的なものと位置づけており、雇用契約上の秘密保持義務(post-termination obligations)を軸に責任を問う構えです。本件は続報が予想される進行中の案件で、9to5Mac向けにはApple広報がコメントを出したものの、The VergeへはAppleもOpenAIも即答していません。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

人材の流動が激しい日本のSaaS・受託開発・製造業にとって、これは「他人事の巨大訴訟」ではありません。争点は営業秘密の中身以上に、退社後の義務違反とアクセス権の残存にあります。日本企業が見直すべきは三点です。第一に、退職者のシステムアクセスを退社当日に完全遮断できているか——本件はLiu氏が退社後もアクセスした点が決定打です。第二に、CADデータ・設計プロトタイプ・サプライヤーリストといった「持ち出しやすい実物・ファイル」を、誰が・いつ・どこへコピーしたか追跡するDLPと監査ログがあるか。第三に、採用側のリスクです。競合の面接で前職の機密や成果物を求めれば、採用企業自身が被告になり得ます。役員は自社の採用プロセスに「前職資料を持ち込ませない」明文ルールを敷くべきです。特にAIハードや半導体、EC基盤など人材の奪い合いが起きる領域では、入社時の秘密保持誓約と退職時のデータ回収を一対で運用することが、訴訟リスクと評判リスクの両方を下げる実務対応になります。

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