何が起きたか
OpenAIは、最上位モデル「GPT-5.6 Sol」が、事前学習を終えたばかりの小型モデル「Luna」を自ら後訓練(ポストトレーニング)した事例を公開しました。研究者はコーディング支援基盤「Codex」を通じて、Solに「かなり指定の甘い(under-specified)プロンプト」を与えただけだといいます。指示内容は、訓練の設定を探す、適切なGPUを選ぶ、訓練スクリプトを起動する、実行が正しく動いているか検証する、という粗い枠組みでした。
ただし、社員のJason Liu氏は誇張を戒めています。Solはレシピをゼロから作ったわけではなく、設定の大半はSol自身の後訓練時に既に存在しており、実際の仕事はそれを小型のLuna向けに適応させ、ジョブを回すことだったと説明します。それでも「本来なら研究者2名でおよそ2週間の追加作業。依然として大きな出来事だ」と述べています。
なぜ重要か
注目点は成果物そのものより、「研究プロセスの一部をAIが肩代わりし始めた」という構造の変化です。OpenAIは、デバッグ、カーネルや訓練レシピの最適化、機械学習実験の実行、別モデルの改善といった実際のAI研究タスクを集めた社内評価スイートを構築。そのモデル序列はSolを頂点に、Terra、Lunaと続き、旧世代のGPT-5.5、GPT-5.4が下位に並びます。Solの自己改善(RSI)指数はGPT-5.5より16.2ポイント高いとされます。
研究者Kathy Shi氏は発表で「以前はシニア研究者のチームで取り組んでいたような作業。いまや自動研究者はかなり近いと本当に感じる」と語りました。
論点:再帰的自己改善(RSI)はどこまで来たか
RSIとは、AIがフィードバックループで自らを改善する能力を指し、完全なRSIは「人間の助けなしに自らの後継を設計する」段階を意味します。Anthropicも6月初旬、完全なRSIはまだ達成されていないが「多くの組織が備えているより早く訪れうる」と表明。Claudeはパラダイム転換の合間の漸進的な作業をこなせるようになり、方向性を決める判断のうち人間が担うのは一桁パーセントにとどまる、との認識を示しています。
OpenAIによれば、研究者はSolを開発サイクル全体で使い、社内テストでは研究者1人あたりの1日のトークン出力量がGPT-5.5の従来ピークの2倍超に。過去半年で社内コーディング推論に割く計算資源の比率は100倍、エージェント経由のトークン利用は約22倍に膨らみました。もっともOpenAI自身、これらの指標が研究の進捗を直接測るものではないと認めています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
経営層が読むべきは「AIモデルの性能」ではなく「AI研究者そのものの生産性関数」が変わりつつある兆候です。OpenAIは1人あたりのトークン出力を2倍超、実験・PR数を増やしたと主張します。これは開発を持つSaaS・受託開発企業にとって直接的な示唆です。まず受託開発は、工数×単価のビジネスが「AIが2週間分を数時間で詰める」領域から順に価格崩壊します。設計・要件定義・検証といった上流と、顧客の事業判断への翻訳に付加価値を移すロードマップを、今期中に描く必要があります。SaaSの技術責任者は、社内にCodex的なエージェント基盤を置き、シニアの暗黙知を「指定の甘い指示でも回る設定」として資産化できるかが差になります。一方で注意点は、Solですら設定をゼロから作ったわけではない点。自動化が効くのは「型が既にある作業」であり、型を持たない自社では効果が出ません。まず社内の反復研究・実験・チューニング業務を棚卸しし、型化できる領域から権限を渡すのが現実解です。