何が変わったのか

Friendが発表した第2世代のペンダントは、初代の「常時聞き取り、テキストメッセージで返す」という体験を、背面スピーカーによる音声応答に置き換えました。その分だけ裏面は厚みを増しています。AIはOpenAIの最新モデルを採用してアップグレードされました。

特徴的なのは、購入時点でランダムな声と人格が割り当てられ、ユーザーは声も名前も変更できない点です。価格は129ドルから249ドルへほぼ倍増。会話の記憶は標準では30日間で、それ以上保持したい場合は月10ドルのオプション課金が必要になります。販売はSchiffmann氏が180万ドルを投じて取得したドメイン、Friend.comで行われます。

「カスタマイズできない」という設計判断

AIアシスタントの業界標準は、声・口調・呼び名をユーザーが選べるようにすることです。Friendはその逆を選びました。ここには合理性があります。選べる相手は「設定した道具」ですが、選べない相手は「出会った他者」に近づく。関係性を売る製品にとって、カスタマイズ性はむしろ体験を薄める、という賭けです。

同時にこれは、ハードウェアの粗利に加えて記憶の保持期間を月額課金に切り出す設計とセットになっています。30日という区切りは、関係が深まるほど課金圧力が上がる構造そのものです。

EU撤退発言が意味すること

Schiffmann氏は、GDPRへの対応コストが高すぎるため、EUでの販売を取りやめる可能性が高いと語っています。同社は2026年初頭にパリで広告を展開したばかりで、その市場を規制コストを理由に手放すという判断です。

常時聞き取り型のウェアラブルは、装着者本人だけでなく、周囲で話している第三者の音声も拾います。同意を取得していない人物のデータをどう扱うか——ここがコストの中心にあると考えられます。単なる書類仕事ではなく、製品思想そのものが規制と衝突している、と読むべきでしょう。

製品より広告が話題になった1年

同社は2025年にニューヨーク、ロサンゼルス、シカゴで広告を出し、2026年初頭にはパリでも展開。AI利用への反発から落書きによる抗議も起きました。結果として、製品そのものより広告が注目を集めたと指摘されています。広告の反響がピークを越えた後、同社はうつや孤独を抱える利用者を含む4本のユーザー動画を公開しました。

Schiffmann氏は2020年、17歳でCovid-19の感染者数追跡サイトを作って注目された人物で、現在24歳。自宅にはインターネット回線を引かず、音楽はレコードプレーヤーで聴き、Kodak Ektachromeで自身のドキュメンタリーを撮影しているといいます。「Friendのようなものは人々の頭の中では非常にディストピア的で未来的だが、我々はそれを可能な限りアナログな形で提示している」という本人の言葉は、この製品のポジショニングそのものです。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

注目すべきは、GDPR対応コストが「市場から降りる」判断を正当化しうる水準に達している、という実例が出たことです。日本のハードウェアスタートアップやIoT・音声系SaaSにとって、EU展開は自動的な選択肢ではなくなりました。役員は「グローバル前提」の事業計画に、規制対応の実費と撤退オプションを最初から織り込むべきです。

受託開発・SIerには直接的な影響があります。顧客企業が常時集音デバイスや会議録音AIを導入する場面で、装着者ではなく「その場にいる第三者」の同意設計が要件定義から抜け落ちやすい。日本の個人情報保護法は音声を一律に規制するわけではありませんが、社内利用でも労務・信頼の問題になります。ここを先回りして提案できるかが差になります。

課金設計も参考になります。Friendは記憶保持を30日で区切り、それ以上を月10ドルに切り出しました。SaaSでいえば「データ保持期間の課金化」で、ストレージ原価ではなく乗り換えコストに値付けする発想です。

そしてマーケティング。5,000台完売から5万台へという10倍の目標を、都市部OOHと炎上を含む反響で押し上げた構図は、日本のD2C・EC事業者にも示唆的です。ただし製品より広告が語られる状態は、指標としては危険信号でもあります。

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