何が起きたか
WIREDの記者が、Appleが刷新したSiri(Siri AI)をiOS 27の開発者ベータで検証しました。最初の体験はサンフランシスコを歩きながらの「ツアーガイド」用途で、回答は十分に信頼でき、従来のSiriより明らかに役に立つと感じたといいます。チャットボット型のSiriアプリのUIも洗練され、いかにもApple的だと評価しました。
Siri AIは端末内のコンテンツをインデックス化し、個人の文脈を取り込みます。古いメッセージや写真を探す用途では、確かに効きます。それでも記者はその後の1か月で使用頻度が下がっていきました。嫌いになったのではなく、無関心に近い状態です。結論は「進歩ではあるが、スマホとの付き合い方を変えるほどではなかった」。Appleが他のAI企業より privacy に注力している点を加味しても、です。記者はSiri AIを「スマホの検索バー」として受け入れた上で、Instagramのドゥームスクロールや目的のないYelp検索、手入力とスワイプという旧来の習慣に戻りました。なお記者はもともとAnthropicのClaudeをスマホで頻繁に使っています。
なぜ重要か
この記事の核心は、Siriの性能評価ではなく「性能が上がっても習慣は動かない」という観測にあります。プロダクトとしては明確に良くなったのに、既存行動の置き換えが起きなかった。AI機能を自社サービスに載せる側にとって、これは性能ベンチマークより重い示唆です。
ただし記者自身、この体験が例外である可能性を認めています。他の多くのベータテスターは日常的に使い続けており、TechsponentialのAvi Greengart氏はむしろ逆の証言をしています。「以前はSiriが何か役に立つとは信じられなかった。しかし最新のベータでは、使う頻度も用途も増えている。端末内に埋もれた情報を他のどの方法より速く見つけられるし、世界知識も格段に良くなり、音声入力さえ改善した」。つまり評価は割れており、重い既存ヘビーユーザーほど恩恵を実感しているという読み方もできます。
分岐点は「デフォルトの重力」と「AIへの拒否感」
重要なのは、ForresterのChatterjee氏の指摘です。「Siriが同業他社ほど良くないと批判を浴びるか? もちろん。だがそれが膨大なiPhoneユーザー基盤に影響し、他へ移らせるか? その可能性はない」。AIパワーユーザーが新Siriを採用しなくても、日常ユーザーはAppleの標準ソフトで十分満足する、というのがアナリストの見立てです。
さらに、Appleが長年築いたデータプライバシーへの信頼は、Siri AIの差別化要因になり得るとみられています。IDCのRamon Llamas氏は、Appleエコシステムに深く入っており、他のAIツールの安全性に懸念を抱いてきた層こそ、新Siriを試す余地があると考えています。
逆方向の力もあります。生成AIへの文化的なバックラッシュが醸成されつつあり、iPhoneユーザーの一部は「AI」という名前がついているという理由だけで新Siriを避ける可能性があります。倫理的な反発か、より広い不信感か。いずれにせよ、この層は機能改善では説得できません。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業の役員がここから読むべきは、「AI機能の品質」と「AI機能の利用率」は別物だという点です。WIRED記者は性能向上を認めた上で使わなくなり、Greengart氏は逆に用途を増やした。同じプロダクトで評価が割れる原因は、既存習慣の強さと、置き換え対象が明確かどうかにあります。
EC事業者なら、サイト内AIチャットを追加しても、ユーザーはカテゴリ導線と検索窓に戻ります。記者がYelpの手動検索に戻ったのと同じ構図です。KPIは「AI回答精度」ではなく「AI経由の導線が既存導線を何%代替したか」に置き換えるべきです。SaaSなら、Siri AIの端末内インデックスが効いたように、自社データに埋もれた情報の検索・想起こそAIの効きどころで、汎用チャット窓の増設は空振りしやすい。受託開発では、顧客の「AI機能を付けたい」に対し、代替対象の既存操作を特定しない案件は運用フェーズで使われずに終わるリスクを、見積もり時点で提示すべきです。
もう一つ、生成AIへのバックラッシュは日本でも無縁ではありません。「AI」と冠したUIラベルが一部顧客の忌避を招く可能性は、B2Cほど現実的です。名称を機能名で語る選択肢を、経営判断として持っておくべきでしょう。