2025年のLLMは「推論モデルの年」だった

2025年のLLM開発を一言で表すと、推論モデル(reasoning model)の年でした。スケーリング自体は引き続き機能したものの、モデルの「振る舞い」を大きく変えたのは別の流れです。きっかけは、2025年1月にDeepSeekがオープンウェイトで公開したR1です。当時のChatGPTやGeminiに匹敵する性能を、推論トレース(思考過程)を伴う形で実現しました。

R1論文が示したのは、強化学習によって「推論らしい振る舞い」を引き出せること、そして検証可能な報酬を用いるRLVR(Reinforcement Learning with Verifiable Rewards)GRPOアルゴリズムの有効性です。RLVRは数学やコードのように正誤を機械的に判定できる領域で、人手のラベルなしに大量データで後段学習を回せるのが特徴です。

著者が整理する「年次のLLM焦点」

著者は各年の重点をこう要約します。2022年はRLHF+PPO、2023年はLoRAによるSFT、2024年はミッドトレーニング、そして2025年がRLVR+GRPOです。ミッドトレーニングは合成データ・データ配合最適化・ドメイン特化・長文脈学習など、事前学習と後段学習の中間にあたる工程を指します。

R1以降、主要なオープンウェイト/プロプライエタリのほぼ全社が「思考モード」のバリアントを投入しました。Olmo 3はゼロ勾配シグナルのフィルタリングやトークン単位損失、KLロスの撤廃などGRPOの実装改良を重ね、DeepSeek V3.2は数学領域でKL強度をゼロにするなどドメイン別チューニングを導入しています。

2026・2027年の予測

著者は2026年の主役を「RLVRの拡張」と「推論時スケーリング」と予測します。推論時スケーリングはレイテンシとコストを精度に変換する手法で、DeepSeekMath-V2は数学コンペでゴールド水準に到達しました。プロセス報酬モデル(PRM)はR1論文で「大規模RLでは計算オーバーヘッドに見合わない」と否定的に言及されたものの、説明スコアリングを訓練シグナルにする動きは再評価の余地があります。2027年は、破滅的忘却(catastrophic forgetting)を乗り越える継続学習が焦点になるとの見立てです。アーキテクチャ面では、デコーダ型Transformerを土台にMoE層とGQA・スライディングウィンドウ・MLAなど効率化された注意機構への収束が進みました。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社にとっての含意は明確です。第一に、自社の業務に「検証可能な正解」を作れる領域があるなら、独自モデルの後段学習コストは想定より一桁安くなり得るということ。RLVRは数学・コードに加え、SaaSのクエリ生成、ECの在庫補充ロジック、受託開発のテスト自動生成など「正誤判定が機械化できる業務」に応用余地があります。役員・事業責任者がまず着手すべきは、自社の業務プロセスを棚卸しし、「人手評価が不要な検証器を組める領域」を特定することです。

第二に、推論時スケーリングは**「精度をコストで買う」設計判断**を経営アジェンダに引き上げます。基幹業務や法務・経理など誤答コストが高い領域では、レイテンシと推論費を許容して精度を取りに行く構成が合理化されます。逆にカスタマーサポートや要約のような領域は、軽量モデル+高速応答の二段構えが効きます。SaaS事業者は料金設計に「思考モード課金」を組み込む準備、受託開発各社はクライアント向けに精度・速度・コストのトレードオフを提示できる体制が、2026年の競争条件になります。

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