何が発表されたか

Appleは、Apple Watch向けOSの次期版「watchOS 27」を発表しました。提供開始は「this fall(今秋)」で、対応機種はApple Watch Series 9、Ultra 2、Ultra 3、SE 3以降に限定されます。当初Series 10以降と告知されていましたが、6月8日にSeries 9以降へ訂正されました。

柱は3つです。第一に、Apple Intelligenceを基盤とする「Siri AI」の搭載。専用のSiriアプリが新設され、iPhoneで始めた会話を腕元で続けることが可能になります。曲の再生、メール送信、アクティビティリングの目標設定など、アプリ内アクションも実行できます。ただしSiri AIはベータ版が今年後半に提供される予定で、利用にはApple Intelligence対応デバイスとのペアリングが必須です。EUのiOS/iPadOSには現時点で展開されません。

第二に、ホーム画面が「動的アプリグリッド」へ刷新されます。中央にSiriアプリを配置し、Siriが提案するアプリや使用頻度の高いアプリを自動で周囲に並べる構造です。第三に、watchOS 26で導入されたAIパーソナルトレーナー「Workout Buddy」が強化され、ペース・距離・時間の分析、屋外ランとトレッドミルでの計測精度向上、スペイン語対応が加わります。

検索性より「文脈性」へ

注目すべきは、UIの主役が「アプリ一覧」から「Siriが推す文脈」へと移った点です。腕元の小さな画面でアプリを探す行為そのものをAIが代替する設計に踏み込んでおり、生理周期データからの更年期前兆通知など、ヘルス領域も「受動的な記録」から「能動的な気づき」に軸足を移しています。

なお、Appleのフィットネス部門ではアクティビティリングの生みの親であるJay Blahnik氏が4月に退任、ヘルス/Apple Watchマーケティング責任者のStan Ng氏も31年の在籍を経て同月退社しています。Apple Watchハードウェアは2022年末からCEO就任予定のJohn Ternus氏が統括しており、組織再編下での新OSとなります。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社が見るべき論点

ヘルスケア・保険業界: 更年期前兆の通知機能は、健康保険組合や生命保険会社にとって「未病領域」のデータ獲得競争が新ステージに入ったことを意味します。Apple Watchが一次スクリーニングを担う前提で、提携メニュー(保険料割引、特定保健指導との連携)を再設計する余地があります。

BtoCアプリ事業者: 「動的アプリグリッド」でSiri推奨枠に入れないアプリは、腕元での起点を失います。EC・決済・健康・音楽など腕元利用の頻度が高い業種は、Siriのインテント連携(App Intents)対応を今秋までに済ませないと、純粋なタップ起動からの離脱が加速します。SaaSの通知系も同様で、Smart Stackのウィジェット最適化が新たな獲得チャネルになります。

受託開発・SIer: Apple Intelligence対応デバイスとのペアリング必須という制約は、法人向けiPhone調達の世代縛りを実質的に持ち込みます。社員配布端末の更新計画は「Apple Intelligence対応かどうか」を基準に再策定すべきです。EUでiOS版Siri AIが未提供である点は、グローバル展開する日本企業のIT部門が機能差分を前提とした運用設計を迫られることも意味します。今秋までの半年は、対応か様子見かを役員レベルで判断する局面です。

関連リンク