何が起きたか

Appleは3,500ドルのVision Pro向け新OS「visionOS 27」を、WWDC 2026に合わせて公開しました。中核は、Geminiを基盤に据えた新Siriです。「Hey Siri」と発話しなくても、空間に浮かぶSiriアイコンを見つめて話しかければ起動します(従来の起動ワードも引き続き利用可)。アイコンは物理空間の任意の場所に固定できます。

デモでは、Safariで表示中のバックパックを見ながら「これは機内持ち込みできるか」と尋ねると、Siriは航空会社の規定という一般知識と、ユーザーの旅行という個人コンテキストを組み合わせて回答。さらに「このハイキングブーツはバックパックに入るか」という追加質問にも応えました。

なぜ重要か

これまでのSiriは「音声で命令する」アシスタントでしたが、新Siriは「視線で対象を指し、文脈で会話する」エージェントに変わります。Vision Proというハードウェアの強みである視線トラッキングが、AIの入力チャネルとして初めて本格的に統合された格好です。

自社モデルではなくGeminiを選んだ意味

注目すべきは、Apple自身がGoogleのGeminiを採用した点です。Apple Intelligenceの限界を内部で認め、強い基盤モデルを「借りる」ことに踏み切ったとも読めます。一方で、Visual Intelligenceや視線UIといった「Appleにしか作れない層」に経営資源を集中させる姿勢が明確です。

visionOS 27のその他の進化

  • どこでもSiriが文章のドラフト・編集を支援
  • Siriの声のピッチ・速度・トーンをカスタマイズ可能
  • パノラマ写真を奥行きのある空間シーンに変換し、個人環境として利用可能
  • 通知は視線を向けるだけで展開
  • アプリウィンドウに曲率を持たせ、湾曲モニターのような自然な視界を実現
  • デザイナーはMac上の3Dモデルをそのまま物理空間でプレビュー・編集可能

Vision Proの売上が伸び悩むなかでもAppleがソフトウェア投資を続けるのは、噂されるApple glassesでも同じ基盤が動く前提があるためです。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社が読み取るべき論点

1. 「自社LLM神話」からの撤退判断 Appleですら基盤モデルを外部(Gemini)に委ね、UI・センサー・コンテキストで差別化する戦略に舵を切りました。日本のSaaS企業や受託開発会社が「独自LLMを開発します」と掲げるのは、ますます投資正当性を失います。経営者は、LLMはAPIで調達し、自社の固有データ・業務文脈・UXに資本配分する方針へ早急に切り替えるべきです。

2. ECとカスタマーサポートの再設計 Safari上の商品を見ながら「これは機内持ち込みできるか」に答えるSiriは、ECの商品ページが「読まれるもの」から「AIに問い合わせる対象」に変わる予兆です。日本のEC事業者は、商品スペックを構造化データで開示し、AIエージェントが正確に引用できる状態を作っておかないと、回遊・購入の起点を取りこぼします。

3. 法人向けXRの実用ライン 3DモデルをMacから空間にそのまま出せる機能は、製造業・建築・自動車設計の受託開発に直接効きます。Vision Proの法人活用を保留していた情シス・事業責任者は、visionOS 27世代でPoCを再起動する価値があります。