何が起きたか
Metaの監督委員会は、Instagramに投稿されたある女性のAI生成ディープフェイク動画(ドレスを直す動作の中で下着が映る内容)を巡り、Metaに削除を命じる決定を下しました。動画は2人のユーザーから通報されたものの、Metaは削除せず、異議申立ても却下。委員会が介入した後も、Metaは「成人限定」設定に切り替えただけでコミュニティ規定違反には当たらないと結論づけていました。
なぜ重要か
委員会の調査で浮かび上がったのは、Metaのポリシー運用に組み込まれた「本人申告主義」の歪みです。Metaは、AIディープフェイクが「本物の人物を写したものである」ことを示すには、本人による通報こそが最も明確な非同意のサインだと説明しました。それ以外には、法執行機関や信頼できるパートナーからの報告、「報復的・扇情的な意図」を示すキャプションなどが挙げられています。
つまり、被害者が著名人でない限り、自分でアカウントを持って自分の被害を訴えない限り救済されにくい構造になっているのです。今回の動画に映された人物は、すでに自身のアカウントを閉じていました。
委員会が求めた4つの変更
委員会の勧告は具体的です。第一に、AIによるなりすましを成人性的搾取ポリシーに明示し、こうした画像・動画は「デフォルトで非同意である」と位置づけること。第二に、ユーザーが家族や信頼できる友人を「連携アカウント」として指定し、本人に代わって通報できる仕組みを設けること。第三に、AI性的なりすましを、嫌がらせやヌードとは別カテゴリの通報・異議申立て項目とすること。第四に、現在テキサスとフロリダの住民にしか開かれていないディープフェイク専用通報フォームを、全Metaユーザーに開放することです。
連続する是正勧告
委員会は2025年半ばにもMetaのルール運用を「支離滅裂で正当化不能」と批判し、3月にはハイファ(イスラエル)の被害建物を装ったフィリピン発のAI生成動画を巡り、誤情報ポリシーとは別にAI生成コンテンツ用の独立ルール策定を求めていました。プラットフォーム側のAI対応が後手に回っている構図が、繰り返し可視化されています。なお委員会の勧告に法的拘束力はなく、Metaは応答義務を負うのみです。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業が今読むべきポイント
この件は「Metaの話」では終わりません。日本企業の経営者が直視すべきは、プラットフォーム任せでは従業員・取引先・経営者本人を守れないという現実です。
人事・広報・法務部門:女性社員や役員、タレント起用中の広告モデルが性的ディープフェイクの標的になった場合、現状のMetaの設計では、本人がアカウントを開設し自ら通報するまで削除されにくい。社内に「被害者の代わりに通報する代理権限」を持つ広報・法務窓口を整え、Meta・X・TikTokごとの通報経路を事前にマッピングしておくべきです。
生成AI SaaS・受託開発各社:自社製品が顔写真の差し替えや動画生成に使われ得るなら、入力画像の本人同意確認、出力への電子透かし、著名人辞書による拒否リストなど、設計段階での「非同意デフォルト」の組み込みが、今後の規制議論で問われます。EUのAI法に続き、日本でも経産省ガイドラインの更新は時間の問題です。
EC・人材サービス:プロフィール写真や接客動画でAI生成素材を使う際、被写体の同意取得記録を契約書に明文化しないと、二次被害発生時に責任の所在が曖昧になります。役員はまず、自社の「AI生成コンテンツ取扱規程」の有無を確認するところから始めるべきです。