何が起きたか

Tom MacWrightは、この数か月で「明らかにLLMと共著された職務経歴書」を目にする機会が増えたと述べました。応募書類はLLM生成のポートフォリオサイトにリンクし、そのポートフォリオはさらにLLM生成のGitHubプロジェクトを指し、そこに並ぶコミットメッセージまでLLM生成という多層構造です。

なぜ重要か

MacWrightの率直な反応は「この応募者について何もわからない」というものでした。応募者は自分自身を世に出していない、真実のことを何ひとつ言っていない、と評しています。「完璧化され、生成され、プロンプトで作られた履歴書は汎用的で没個性的」であり、「その人物について教えてくれるのは、特定のツールを使っているという事実だけ」だと指摘します。

これは単なる愚痴ではなく、採用市場で起きつつある構造変化の観察です。応募チャネルの末端まで生成AIが浸透した結果、書類選考が「個人を見極める手段」として機能しなくなりつつある、という警鐘です。MacWrightはこの現象を「偶発的な匿名性(Accidental anonymity)」と呼びます。応募者は匿名になることを意図していないにもかかわらず、生成テキストの均質さによって結果的に区別不能な存在になってしまうのです。

論点──「ツールを使えること」では差別化できない

履歴書、ポートフォリオ、GitHubの三点セットは、これまで「自分の言葉で語る場」「実際に手を動かした証拠」として機能してきました。そのすべてが生成可能になった今、選考側が読み取れるのは「LLMを使いこなしている」という単一のシグナルに集約されます。MacWrightの指摘の核心は、応募者が自分を売り込むつもりで投じた情報が、皮肉にも応募者を見えなくしているという点にあります。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社にとって、これは中途採用のフローを今すぐ見直すべきというシグナルです。SaaS・受託開発・自社プロダクト企業が書類とGitHubで一次選考をしている場合、その判断材料はすでに「本人の輪郭」を映していない可能性があります。

経営者・人事責任者がとるべき動きは三つです。第一に、書類選考の比重を下げ、短時間でも本人の言葉を引き出すスクリーニング面談やライブコーディング、過去業務の意思決定理由を口頭で聞く工程を必ず挟むこと。第二に、自社の採用要件を「ツール習熟」から「課題定義力・トレードオフの判断・チームでの振る舞い」へ言語化し直すこと。第三に、エンジニア採用に限らず、企画・営業・マーケでも同じ均質化が進むため、職務経歴書テンプレを廃止し、自社固有の課題に対する記述式設問を導入することです。生成AI前提の応募が標準化する局面で、「人間の固有性を見抜ける選考設計」を持つ企業が、採用競合に対する数少ない優位を握ります。