何が起きているか
Anthropicは中国からのClaude利用を厳しく制限しており、6月初旬には最上位モデル「Mythos」の安全版「Fable 5」を公開したものの、トランプ政権の輸出規制を受けて数日で世界的にアクセスを取り消しました。中国本土の法人向け商用提供も行っておらず、海外法人を持つ中国企業の子会社にも提供していません。
それでも中国のエンジニアはClaudeを使い続けています。VPN、海外の電話番号、国際決済手段、固定プロキシを組み合わせる古典的な手口に加え、TaobaoやXianyu、Telegramの闇市場では「Claude Pro」「Claude Max」を名乗るアカウントが流通。4月にAnthropicがPersona社経由でパスポート等によるKYC(本人確認)を導入したことで、ここ数カ月は『KYC通過済みアカウント』が新たな商材として広告されるようになりました。
中継インフラ化する『転送站』
より組織的なのが**転送站(relay station)**と呼ばれる中継サービスです。運営者はAnthropicがサポートする国(シンガポール等)にサーバーを置き、企業向けディスカウントで仕入れたAPIキーを、中国国内からアクセスできるWebサイト経由で再販します。価格はAnthropic公式より安いケースもあり、GitHubや中国語サイトには数十の転送站のモデル・トークン単価比較表が掲載されています。暗号資産起業家のJustin Sun氏も5月に自前の転送站を開設しました。
なぜClaudeなのか
Oxford China Policy LabのZilan Qian氏は「中国モデルは米国モデルから6〜9カ月遅れており、コーディング領域では差が明確だ」と指摘します。Claude Codeを筆頭にコーディング用途での評価が高く、DeepSeekやZ.aiより選ばれる傾向にあります。今年話題になった『OpenClaw』を契機にAIエージェント需要が拡大し、チャットより遥かに多いトークンを消費するワークロードが転送站の収益源となっています。
Anthropicは今週、Alibabaが自社モデル訓練のためにClaude出力を『蒸留(distillation)』に使ったと非難。CEOのDario Amodei氏は、中国によるフロンティアモデルへのアクセスを米国安全保障上の重大脅威と繰り返し位置付けています。
出典: Wired
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業が取るべき距離感
SaaS・受託開発企業にとって他人事ではありません。中国子会社・中国籍メンバーを抱える日本のIT企業が、シンガポール法人や個人クレカ経由でClaude APIを契約させ『便利だから』と中国側に使わせれば、Anthropicの利用規約違反でアカウント凍結、最悪は取引停止リスクに直結します。Personaによる本人確認が常態化した今、IPやID整合性での検知精度は確実に上がっています。
EC・越境決済事業者は、TaobaoやXianyuでのAIアカウント転売がカード不正利用やマネロンの温床になっている点を再確認すべきです。BINベースのリスクスコアリングだけでは、企業ディスカウントを悪用した転送站のトラフィックは見抜けません。
事業会社の経営者は、社内エンジニアが個人判断で中国系転送站経由の格安Claudeを使う『シャドーAI』を最大の脅威として捉えるべきです。プロンプトに混じる顧客情報・ソースコードは、転送站運営者にとって二次販売可能な資産です。生成AI利用ポリシーに『非公式中継経由の利用禁止』を明文化し、SSO統合された正規API窓口に一本化することが、6〜9カ月後に効いてくる投資になります。