何が起きたか
Epoch AIが公開した新ベンチマーク「MirrorCode」は、Unixユーティリティ、データ直列化、バイオインフォマティクス、インタプリタ、静的解析、暗号、圧縮など25の既存プログラムをAIに「ゼロから再実装」させる試験です。生成されたコードは、モデルが開発中に見ることのできない隠しE2Eテストで、元プログラムと完全に同一の出力を出すことが求められます。
結果はClaude Opus 4.7が解答率56%でトップ。GPT-5.5が44%、Gemini 3.1 Pro Previewが32%と続きました。1年前のトップモデルはおよそ30%で、しかもカレンダーユーティリティのような単純なものしか解けなかったことを踏まえると、進化のスピードは尋常ではありません。
なぜ重要か
注目すべきは「予算規模」です。従来の多くのソフトウェア工学ベンチマークは1タスクあたり1〜10ドルで打ち切るのに対し、MirrorCodeは桁違いの推論予算を許容します。最大規模のタスクでは2600ドルを投じ、AIは人間の介在なしに19日間連続で動き続けました。
具体例として、Claude Opus 4.7は約1万6000行のGoコードと40以上のコマンドを持つバイオインフォ系ツール「gotree」を14時間・251ドルで再実装しています。研究者によれば、AI支援のない人間エンジニアが同じ作業を行うと2〜17週間を要するとのこと。
論点:長時間自律実行という新しい軸
これまでの「コーディングAI」の評価軸は、関数や数百行のスニペット単位の正答率でした。MirrorCodeは、数十時間〜数週間スパンで自律的にプロジェクトを完成させる「長時間ホライズン」性能を可視化したという点で意味が変わります。
一方で、小規模タスク(uuidやparseqsvなど)は安定して解ける反面、大規模タスクは現時点でどのモデルも一つも解けていません。失敗時でもテスト90%以上をパスするケースが多く、「最後の10%」をどう詰めるかが次の競争軸になります。価格面ではGPT-5.5がGPT-5の3倍に高騰した一方、Opus 4.7はOpus 4.1の3分の1まで下がっており、性能と単価の関係が逆転し始めています。
なお、対象が公開コードである以上「学習データに含まれていた可能性」は残りますが、研究者は「結果は記憶に支配されていないが、貢献の可能性は排除できない」と慎重な見解を示しています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本の受託開発・SIerにとって、これは「単価ベースのビジネスモデル崩壊」の前兆と読むべき出来事です。1.6万行・40コマンドのCLIツールが14時間251ドルで仕上がる事実は、月額数百万円・数ヶ月単位で見積もる小規模リプレース案件の根拠を直撃します。役員層は「人月単価×工数」の提案書を、来期中に「成果物単価+運用支援」へ組み替える準備を始めるべきです。
SaaS事業者にとっては逆風と追い風の両面があります。社内ツールの内製化が現実的になることで「とりあえずSaaSを買う」需要は痩せる一方、自社プロダクトの機能追加スピードは2〜17週の工数を14時間に圧縮できる可能性があります。CTO・VPoEは、エンジニア採用計画より先に「2600ドル/タスクの推論予算を承認できる稟議フロー」を整備すべきです。19日間誰も見ていない間にAIが課金し続ける運用は、現行の経費精算プロセスと根本的に相性が悪いためです。EC・コンテンツ事業者は、自社向けに最適化されたバッチ処理・データパイプラインを汎用SaaSではなく内製で持つ選択肢が現実解になります。