何が起きたか
VentureBeat Pulse Researchが従業員100人超の企業101社を対象に2026年第2四半期(6月)に実施した調査で、AIエージェントに業務コンテキストを供給する基盤が「信頼できる速度」を超えて構築されている実態が明らかになりました。回答企業の**57%**が、過去6ヶ月でエージェントが「自信満々だが誤った回答」を出し、その原因が業務コンテキストの欠落・不整合に遡れたと答えています。しかも、そのうち半数超は「一度きりではない」と回答しました。
内訳を見ると、31%が「複数回発生した」、27%が「一度あった」、28%が「発生していない」、10%が「そもそも社内データでエージェントを動かしていない」となっています。エラーは例外ではなく、運用に踏み込んだ企業の多数派が経験している常態です。
なぜ重要か
問題の核心は、モデルの賢さではなく「何を根拠に答えるか」という検索・供給インフラにあります。コンテキストの主要な供給源はRAG(検索拡張生成)で、**38%**が第一の手段としています。次いでガバナンスされたセマンティックレイヤーやオントロジーが21%、混在が14%、ライブシステムへの直接クエリが10%と続きます。
注目すべきは、ファインチューニングがほぼ姿を消している点です。主要な供給源はいずれも実行時(run time)にコンテキストを注入する方式で、モデル自体を作り込む発想から離れています。4〜5月調査(n=136)でもファインチューニングはモデル選定要因6項目中の最下位(5%)でした。つまり企業の焦点は「モデルを変える」ことから「正しい文脈を渡す」ことへ移っています。
どこで検索し、どこへ向かうか
実利用ではプロバイダー純正の検索が専用ベクトルDBを上回りました。OpenAIの検索・ファイル検索が40%、Google Vertex AI Searchが38%で、Elasticsearch/OpenSearch(20%)、pgvector(12%)、Weaviate(12%)、Qdrant(10%)、Pinecone(9%)、Milvus(6%)といった専用DBを引き離しています。一方で本番RAGを一切運用していない企業も13%存在します。
将来像では、**34%**が2026年末までに「ハイブリッド検索(埋め込み+リランキング+アクセス制御)」が主流になると見ています。ただしプロバイダー純正への一本化を狙う企業は21%にとどまり、36%は用途最適な単体ツール(best-of-breed)を残す意向で、囲い込みへの警戒が根強いことも読み取れます。修正策とされる「ガバナンスされたセマンティックレイヤー」は58%が導入済みまたは構築中ですが、多くはまだ本番に達していません。
なお本調査は101社の自己選択型サンプルで確率標本ではなく、中堅企業に偏っています。あくまで方向性を示すシグナルとして読む必要があります。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業でRAGやAIエージェントの内製・PoCを進める事業責任者にとって、この調査は「モデル選び」から「文脈の統治」へ論点を移す号砲です。57%が経験した誤答の原因はモデルの性能ではなく、社内データの欠落・不整合。つまり、投資すべきはより賢いモデルではなく、権限管理付きの検索基盤とセマンティックレイヤーの整備です。
受託開発・SIerは、顧客への提案軸を「どのLLMを使うか」から「顧客の業務データをどう信頼できる形で供給するか」へ転換すべき局面です。SaaS事業者なら、OpenAI・Google純正検索が専用ベクトルDBを上回った事実は重要で、自前でベクトルDBを抱える設計が本当に必要か再検証する価値があります。ただし36%が単体ツールを残す意向を示す通り、特定プロバイダーへの全面依存はロックインリスクを伴います。ECや金融など回答精度が信用に直結する業種では、本番投入前に「自信満々の誤答」をどう検知・遮断するかを運用設計に組み込むことが、経営者が今すぐ着手すべき打ち手です。