何が起きたか
非営利団体Current AIが、民間企業が所有するAIに対する「公共の選択肢」を掲げ、オープンで多言語なAIインフラの構築を進めています。2025年2月にMartin Tisné氏が設立し、2026年1月にはMozillaでAI戦略を率いたAyah Bdeir氏(STEM教育企業littleBitsの創業者。同社は2019年にSpheroへ売却)がCEOに就任しました。
資金は「投資」ではなく「拠出」です。フランス政府が1億ドルをシードし、Ford財団、MacArthur財団、DeepMind、Salesforceが加わって、コミットされた資金の総額は4億ドルに達しています。Bdeir氏は「彼らは投資家ではなく、ファンダー(資金提供者)だ」と強調します。
すでに動いている実装
構想だけではありません。インドでは政府のAI言語部門Bhashiniと組み、インターネット接続不要で22のインド言語をオフラインで動かす小型端末「Suno Sutra(聴く記録の意)」を開発し、オープンソース化しました。ジュネーブの「AI for Good Global Summit」では、Hugging Face、Mozilla、MIT Media Labなど10団体の連合がわずか7週間で組み上げたオープンソースのチャットボット「AlphaChat」を公開。先月はケニア、レバノン、ブラジル・アマゾンの4団体に計320万ドルの助成金を配分しました。
なぜ重要か
世界の話し言葉の半数は消滅の危機にあり、英語主導の大規模言語モデルは多くの言語・文化・コミュニティを取り残します。Current AIのデータ手法は、モデルとデータをローカルに保存し、開発前にコミュニティの専門家を招き、「いつでも中断できる」同意プロトコルをパイプラインに組み込む点が特徴です。Bdeir氏は「スケールが常に尺度とは限らない。それはビッグテックのパラダイムだ」と語り、規模拡大とは異なる価値基準を打ち出しています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業にとって最も直接的なのは、Sakana AIとの提携で日本語・日本文化を支える共通のオープンソースAIスタックが整備される点です。これまで日本語対応は米国製モデルへの依存が前提でしたが、SaaSや受託開発企業は「主権的AI(Sovereign AI)」の共通基盤を選択肢に加えられます。特にオフライン動作・ローカル保存・コミュニティ同意という設計は、データを国外クラウドに出せない自治体・医療・製造業案件と相性が良く、受託開発各社は提案の差別化材料にできます。
経営者が今見るべきは「資金提供者であって投資家ではない」という運営構造です。ROIではなく公共性で回るインフラは、価格・ライセンス面で商用モデルと異なる前提を持ち得ます。ECやSaaSの役員は、英語圏モデルへの一択依存を見直し、日本語・地域言語で自社データを制御する代替スタックの検証を早めに始めるべきです。