何が起きたか
ストレージ企業のWekaが、AI基盤向けソフトウェア「NeuralMesh 6」と、同社初の自社設計ハードウェア「Wekapod 3」を発表しました。中核となるのは「Augmented Memory Grid」という機能で、大量のNANDフラッシュを束ねて、GPUメモリのように振る舞わせる技術です。高価で真っ先に枯渇するGPUメモリを「限界のある資源」として扱うのではなく、桁違いに安いフラッシュで拡張するという発想です。
なぜ重要か
生成AIの推論では、長いコンテキストや複数ターンの対話のたびに、すでに処理した情報を何度も再計算します。プロンプトは「prefill(注意計算・重い)」と「decode(出力生成・軽い)」の2段階を踏み、マルチターンでは新しいターンごとに、それ以前のすべてに対してprefillが再発火します。Wekaの説明では、10ターンなら100回、20ターンなら400回もの「過剰計算」が起き、そのぶんGPUメモリと計算資源を食いつぶします。
Augmented Memory Gridは、この計算済みトークン(KVキャッシュ)を100%キャッシュし、二度と計算し直さなくて済むようにします。「共有メモリでは買えない量のNANDを積める」というのがWekaの主張で、結果として既存GPUの稼働率向上、推論コスト低減、そしてGPU増設を数カ月待たずに新ワークロードを立ち上げられる、という効用を掲げます。
混み合う市場と4つの機能追加
この領域はDell、NetApp、Pure Storage、VASTが直近2年でAI基盤へ軸足を移し、競争が激化しています。NeuralMesh 6は、競合評価で失注要因になっていた機能差を埋めるため、4つを追加しました。
- コンポーザブル/仮想マルチテナンシー:ハードレベルで完全分離するコンポーザブル方式と、RDMAファブリック経由でネットワーク分離する仮想方式。後者は1クラスタで1,000テナント超に対応し、30分未満でプロビジョニング可能。50個のコンポーザブルクラスタを走らせれば最大5万テナントまで支えます。
- ファイル/オブジェクト統合ストレージ:ディスク上の同一データを、翻訳層も二重コピーもなしに、ファイルパスとS3パスの双方から同時に読めます。Liran Zvibel氏はAWS以外のGPUクラウド(Lambda、Nebius、G42、CoreWeave)を標的に、従来型S3比で約100倍の性能とAPI課金でない容量課金を訴求します。
- メタデータ先行レプリケーション:全データのコピー到着を待たず、宛先環境を先に閲覧可能にし、アクセス時にデータを実体化。数日〜数週間、極端には1カ月かかっていた移行を「1時間以内」に短縮します。
- AlloyFlash:TLCとQLCのNANDを1クラスタに混在させ、低遅延が要る処理はTLC、大容量はQLCに振り分けてTB単価を下げます。データ削減はオプションでなく既定で稼働します。
NAND Researchのアナリスト、Steve McDowell氏は、WekaとVASTを真の「AIネイティブなデータ企業」と評し、Augmented Memory GridをWeka最大の技術的優位かつ市場で最も高性能なKVキャッシュ実装だと指摘。加えて、データ削減効果を契約で保証している点を過小評価されがちな強みとし、買い手には「同規模・同種のワークロードを運用する組織に話を聞き、約束と実績を突き合わせよ」と助言しています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業で社内コパイロットやカスタマーサポートAI、長コンテキストの検索(RAG)基盤を本番運用するSaaS・EC・受託開発の各社にとって、これは「GPU増設予算」の議論を組み替える話です。GPUは高価で入手待ちも長く、推論コストの重しになります。Augmented Memory Gridのように計算済みトークンを安価なNANDにキャッシュできれば、同じGPU枚数で捌ける対話量が増え、単価が下がります。特にマルチターン前提のチャット型サービスでは過剰計算が10ターンで100回に膨らむため、効果は自社の対話設計に直結します。事業責任者が今すべきは、(1)自社の推論コストのうちprefill再計算が占める割合を把握し、(2)GPUクラウド移行時の「1時間で立ち上がるか」を要件化し、(3)McDowell氏の助言どおり、同規模の運用実績を持つ導入先に直接ヒアリングして、削減率の契約保証と実測値の差を検証することです。逆に小規模・単発推論中心なら効果は限定的で、投資判断は保留が妥当です。