何が起きたか
OpenAIは1月に発表・試験してきた健康機能「Health in ChatGPT」を、米国の18歳以上のユーザーへ本格展開しました。Apple Health、医療記録、ウェルネスアプリを連携すると、検査結果の確認、診察前の準備、睡眠や活動データの分析ができます。連携した健康データはモデルの学習や広告には使わないとしています。開発には260人以上の医師が関わりました。
注目すべきは「無料か有料か」で回答モデルが分かれる点です。無料ユーザーはGPT-5.5 Instant、有料ユーザーは上位のGPT-5.6 Solが使われます。OpenAIの評価指標「HealthBench Professional」では、GPT-5.6 Solが全カテゴリーで医師の回答や旧モデル(GPT-4o、GPT-5.5 Instant)を上回りました。差が最も大きいのは回答の網羅性(88.0対53.2%)と、健康上の意思決定への有用性(83.0対50.8%)です。
なぜ「差別化」が重要か
このスコアは人工的なテスト環境で測られたもので、実際の医師は時間的制約・疲労・患者記録や同僚への相談といったツール不足でスコアが下がりやすい、という留保付きです。OpenAI自身、ChatGPTは間違えることがあり医療助言の代替にはならないと明言しています。
過信のリスクも見えています。放射線科ベンチマーク「RadLE 2.0」では、テストされた16のAIモデルのいずれも人間の放射線科医に及びませんでした。問題は、限界を認めず高い自信で誤った所見を出す点にありました。チャットボットの過信・説得的な物言い・迎合(sycophancy)は、深刻なメンタルヘルス被害にもつながっています。
使い勝手と地域
初期テストでは、参加者の7割超が専用の健康セクション外で健康の質問をしていました。切り替えが面倒だったためで、OpenAIは全会話で健康機能を使えるようにしつつ、データ管理用の専用セクションは残しました。一方、欧州(EEA、スイス、英国)での提供時期は未定で、1月時点でも除外されていました。厳しいEUのデータ保護規制と、EU AI Actでの高リスク分類の可能性が背景とみられます。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本の医療系SaaS・健康アプリ事業者は、ChatGPTが「検査結果の解釈」「診察準備」まで無料で担う世界を前提に自社の存在価値を再定義すべきです。単なる数値表示や記録管理は汎用AIに飲まれます。差別化は、日本の保険診療・電子カルテ規格・薬機法対応といったローカル文脈と、医療機関との正式連携に残ります。受託開発企業にとっては、OpenAIが260人超の医師を投入し全カテゴリーで医師超えのスコアを出した事実が、「AIは補助、責任は医師」という設計要件を明確にします。RadLE 2.0で16モデル全滅、過信が被害を生む事例を踏まえ、医療・保険・人事の健康領域でAIを組み込む役員は、回答生成そのものより「不確実性の明示」と「人間の最終判断への引き渡し」をKPIに据えるべきです。無料と有料でモデル品質が変わる設計は、自社プロダクトの課金設計にも示唆を与えます。