何が起きたか

VB Transform 2026で、BAND、Conifers、Raindrop AI、Arcade.dev、Omiliaの5社が、エンタープライズAIエージェントの「土台」にあたる領域——オーケストレーション、可観測性、接続性、セキュリティ——のプロダクトを提示しました。共通する前提は明快です。エージェントは既に仕事をこなせるが、エージェント同士がやり取りし、信頼と権限を確認し、後から監査できるための配管はまだ建設中だということです。

BANDのCTO兼共同創業者Vlad Luzin氏は、マルチエージェント環境の「調整インフラ層」を作っていると説明します。エージェントがタスクを受け取り、レジストリを訪れ、別のエージェントを集め、「会話空間」でサブタスクを委譲し、結果を持ち寄って人間に要約を返す——そういう流れです。Telegram、Slack、Discordでは解決しない理由も明確で、これらは人間向けに作られており、エージェントの導入には多数の手作業が必要で、しかもエージェント同士がお互いを見つけられない。Luzin氏の言葉では、エージェントは「一種のデジタル独房に、まだ一人でいる」状態です。

なぜ重要か

Luzin氏はこれを分散システムの問題として捉え直しています。「まず解くべきはトランスポート層、エージェントがリアルタイムでどう通信するかだ」。会話はIPやURLの上では成立せず、チャネルやプラットフォームを越えて話せる抽象化レイヤーに引き上げる必要がある、という主張です。Claudeがステートレスで、開発者が用途ごとに複数セッションを開いて切り替える摩擦も、同じ根の問題として挙げられました。BANDはA2AとMCPに対応し、8〜20時間動く自律ワークフローを支え、生成されたタスクをリアルタイムで記録・表示できるとしています。

ここで注目すべきは、5社が別々の課題を解いているように見えて、実は同じ一点に収束していることです。「エージェントの行動を、後から人間が追跡・検証・制御できる形にする」。Arcade.devの共同創業者兼CTO Sam Partee氏は、エージェントが直面する障害を認可・ガバナンス・信頼性の3つに整理し、実在のユーザーの実在の権限で動くには新種のセキュリティアーキテクチャが必要だと述べます。Arcadeのセキュアなエージェントランタイムは認証・認可レイヤーを提供してセキュリティ審査を通せる状態にし、行動を最小の特権スコープで「その時刻ちょうど」に帰属させます。オンプレ導入可能なプラグインとして、既存のRBAC、IDPS、ポリシー、エンタイトルメントの検問を通す設計です。Partee氏はサプライチェーン攻撃が「制御不能なほど蔓延した」とし、セキュリティと可観測性が難題のままな理由を「大部分は、抽象化が間違っていた」と語りました。

論点:速度の非対称と、壊れ方の重さ

ConifersのCEO兼共同創業者Tom Findling氏の指摘は、防御側の構造問題です。守る側は人間の速度で動き、敵は機械の速度で動く。エージェントを手にした攻撃側は一度成功すればよく、かつては数か月・数週間かかった攻撃キャンペーンが数時間、時に数分になった。一方でセキュリティ運用は分断され、手作業で、遅い。「脅威の地形は変わり、検知は変わらず、脅威インテリジェンスは運用化されていない。これはエージェントの仕事だ」。Conifersはインテリジェンス、ハンティング、検知、エンジニアリング、調査、対応という各要素をエージェント化し、サイロを壊して相互に通信させることで、常時稼働の能動防御を狙います。EDR、SIEM、ポスチャー管理といった既存ツールへの接続を重視し、どの統制が効いていてどこに投資すればROIが高いかまで示すという設計思想です。実績としては封じ込め時間を7時間から12分に圧縮し、複雑な調査を4分以内で回したとされます。

Raindrop AIのCTO Ben Hylak氏は「ダブルパンチ」と表現します。エージェントが高度化するほど複雑性と実行時間が増え(数時間から数日規模になる)、同時に医療や防衛のような領域では不具合が致命的になる。「モデルとエージェントが良くなるにつれこの問題は悪化しているし、今後も悪化し続ける十分な理由があると思う」。同社は本番稼働中のエージェントから重大な問題を見つけ、過去のユーザー行動をもとに修正をシミュレートし、副作用を出さずに効くと確認してから本番投入できるようにします。メッセージ、ツール呼び出し、リトライ、エラーを一か所に集約し、問題があればSlack等で人間に通知。デプロイ前シミュレーションで影響範囲を特定し、A/Bテストで実際の変化を見る。RLプラットフォームはハーネスを最適化し、Raindropのデータから直接モデルを学習させ、顧客ごとにモデルを訓練します。Hylak氏はその出力を「実際に辿れて、理解しやすく、検証しやすい形に圧縮されている」と説明しました。

CXは制御か速度か、という二択の解き方

OmiliaのCPO Claudio Rodrigues氏は、エンタープライズCXは「まったく単純ではない」と言います。ヒューリスティックなシステムは制御は効くが遅く、エージェント型は速いが予測できない。同社はその両方を出すことを狙い、顧客対応の現場をそのまま観測します。あらゆる顧客・オペレーターの対話を聴き、データ、API仕様、画面録画、SOPを取り込み、サポートのユースケースに対応づける。そこからインサイトと改善案を生み、会話エージェントを自動生成し、文書やAPIから情報を引き、対話フローを設計する。人間の専門家が実際の対話とシミュレーションでテストし、監督下で本番投入する。年間30億件超のコール、一部の導入では日次100万件超の音声通話という規模で、TTRは30〜45%改善、アップセル収益は人間のオペレーター比21倍、成熟した導入では80〜90%の自動化に「容易に」届くとしています。差別化要素として挙げたのは音声認識(STT)と、ガバナンス・可観測性のレイヤーでした。そして「human in the loopは我々にとって今も極めて根本的だ」。コンタクトセンターはコストセンターではなく収益ドライバーであるべきだ、という位置づけです。

5社を並べると、エージェント時代の投資対象が「モデル」から「モデルの周辺装置」へ移っていることが読み取れます。通信の抽象化、行動の記録、権限の帰属、修正の事前検証、人間の介入点——どれもモデルの賢さでは解けず、インフラとして作り込むしかない領域です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業の役員が読むべき含意は3つあります。第一に、PoCの評価軸を変えるべきです。「エージェントが動くか」ではなく「Arcadeが言う認可・ガバナンス・信頼性の3点をどう満たすか」を稟議の必須項目にする。既存のRBACやIDPSを通す設計でなければ、情シスとリスク管理部門で必ず止まります。オンプレ・クリーンルーム型の選択肢がある点は、金融・製造・医療の日本企業には現実的な突破口です。

第二に、受託開発・SIには短期の商機と中期の脅威が同時に来ます。BANDが言う「トランスポート層」やA2A/MCP対応の接続、Raindropのような本番監視の実装は、当面は人の手が要る統合案件です。一方でOmiliaが示す「成熟導入で80〜90%自動化」「アップセル21倍」という数字は、BPO・コンタクトセンター運用の人月モデルを直撃します。工数課金からTTR30〜45%改善のような成果課金へ、契約形態を先に作り替えた事業者が勝ちます。

第三に、ECとSaaSは自社の「壊れ方」を先に決めること。Hylak氏の言う実行時間の長期化は、返品処理や与信のような不可逆な業務ほど損害が重くなります。本番投入前にシミュレーションで影響を確認する仕組みと、Slack等での人間への通知経路を、機能開発と同じ優先度で予算化してください。攻撃側が数分で動く前提なら、封じ込め7時間の運用は既に負けています。

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