何が起きたか(事実)
Engelmayer判事は、RedditがSerpApiとPerplexity AIに対して起こした訴訟について、DMCA(デジタルミレニアム著作権法)に基づく請求は審理を進めることを認めました。一方で、不当利得(unjust enrichment)と不正競争(unfair competition)の請求は、著作権法によって専占(preempt)されるとして退けています。被告側は少なくともこの2点で主張を通した形です。
注目すべきは判事の言い回しです。SerpApiとPerplexityは、ディスカバリ(証拠開示手続き)を通じて「RedditはGoogleに対し、検索結果の中で自社コンテンツを保護する権限を与えたことはない」と立証しうる、と判事は指摘しました。さらに意見書の脚注では、Google検索結果に表示される公開アクセス可能なコンテンツがすべて著作権法の保護対象ではないと証明できれば、SerpApiの防御はより強固になりうる、とも示唆されています。
SerpApi側の弁護士Jeff Homrig氏は「裁判所は事実を審理することを決めた。事実は我々の側にある」とし、同社がアクセスしているのはRedditのプラットフォームではなく公開された検索結果であり、プラットフォームが課金したいと思ったからといって公開情報が保護対象になるわけではない、と述べています。Perplexity AIはArs Technicaの取材に即答していません。
なぜ重要か:「残った請求」より「消えた請求」
この判断の実務的な含意は、勝ち負けよりも争点の形が変わったことにあります。不当利得と不正競争という、著作権とは別の理屈でデータ利用を止めようとする経路が、少なくともこの局面では閉じられました。つまり「うちのデータをタダで使って儲けているのは不当だ」という直感的な訴えは、著作権法の枠組みに吸収されてしまう。残ったDMCAという道も、決して広い道ではありません。
Public KnowledgeのDMCA専門家Meredith Rose氏は、過去3年のAIスクレイピングの拡大を背景に、GoogleとRedditが「使える道具を手当たり次第に掴んでいるように見える」とArsに語っています。同氏によれば、Googleをめぐる訴訟で判事は、DMCAで訴える当事者適格を持つのは著作権者か、独占的ライセンシーか、問題となっている技術的保護手段を実装・提供している者だと述べており、Redditはそのいずれでもない、と指摘しました。
ここが本件の構造的な弱点です。掲示板型サービスの投稿は、原則としてユーザーが書いたものです。プラットフォームは場を運営していても、著作権者そのものではない。この「持っていない権利で戦わなければならない」という非対称が、法廷戦術を複雑にしています。
予測は立たない、という前提で動く
Rose氏はDMCAをめぐる判断が「vibes(雰囲気)」次第に見えると認め、現段階で勝者・敗者を予測するのは難しいとしています。専門家がそう言う領域で、事業側が「判例が固まってから対応する」と構えるのは、実質的に無策と同じです。
なお、Ars Technicaの親会社Condé Nastを傘下に持つAdvance PublicationsはRedditの筆頭株主にあたります。報道の背景として押さえておくべき関係です。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
UGCを抱える日本企業——口コミ、Q&A、レシピ、EC上のレビューなどを資産と考えている事業者にとって、本件は「そのデータは本当に自社の権利か」を突きつけます。Redditですら著作権者でも独占的ライセンシーでもないと指摘された以上、日本のプラットフォームも利用規約の投稿ライセンス条項を再点検すべきです。非独占の通常ライセンスのままでは、AI企業との交渉でも法的措置でも足場になりません。法務に確認すべきは一点、「当社は投稿について何をどこまで許諾されているか」です。
SaaS・AI活用企業は逆側のリスクを負います。SerpApiのような検索結果APIやスクレイピングベンダー経由でデータを調達している場合、供給元が訴訟対象になれば機能が止まります。ベンダー契約の補償条項と、代替調達経路の有無を今期中に棚卸ししてください。
受託開発では、クライアント要件に「競合サイトの情報収集」が含まれる案件の責任分界を契約書で明示すること。実装した側が巻き込まれる構図は避けられます。
経営判断としては、訴訟の行方を待つのではなく、正規のライセンス契約でデータを仕入れる体制に先に移るほうが安い、という読みが妥当です。