何が起きたか
YouTubeは、プロンプトから動画を作ることが容易になった状況を受けて、チャンネル収益化ポリシーを更新しました。Halprin氏は、制作に使うツールについてYouTubeは「agnostic(どのツールでも構わない)」だと明言しています。禁止しているのはAIそのものではなく、努力と創造性が欠けた出力です。
収益化から外れる対象として挙げられたのは3類型です。第一に、汎用的で反復的な動画、とくに明確なコンテンツファーム。第二に、動物が危機に瀕する場面のような、見ていて不快・苦痛を感じさせるコンテンツ。第三に、金融など重大な事柄について助言する「AIペルソナ」です。
これらはヌードやヘイトスピーチを禁じる一般のコミュニティガイドラインとは別枠で、AI動画で収益を得たい人だけに関わるルールだとHalprin氏は強調しています。
なぜ重要か
注目すべきは、規制の対象が「生成手段」から「出力の質と用途」へ移った点です。「repetitious」から「inauthentic」への一語の変更は、判定基準を「同じものを繰り返しているか」から「そこに人の手が入っているか」へずらすものです。前者は機械的に数えられますが、後者は文脈判断を要します。運用の裁量は広がり、その分クリエイター側の予見可能性は下がります。
3類型の並びも示唆的です。量産系は広告主のブランド毀損リスク、不快系は視聴体験の劣化、AIペルソナは金融助言という実害リスク——それぞれ守っている対象が違います。プラットフォームがAIコンテンツを一律に扱えず、リスクの種類ごとに切り分けざるを得なくなっている実情が見えます。
背景にある数字
2025年、Merriam-Websterの今年の単語は「slop」でした。The Guardianは昨年、急成長中のYouTubeチャンネルの約10本に1本がAIを中心としたものだったと報じています。一方Fortuneが伝えた最近の調査では、AIに肯定的な見方を持つ回答者は26パーセントにとどまります。供給は伸び、世間の評価は伸びていない。この乖離が、全面禁止ではなく収益化条件で絞るという選択の背景にあります。LinkedInも最近、一律禁止ではなくニュアンスのあるAIポリシー更新を行っており、プラットフォーム側の対応は「線引き型」に収束しつつあります。
検出はまだ完全ではない
YouTubeは自動AI検出を導入しましたが、すり抜ける動画は残ります。人力での見分け方として挙げられているのは、赤ん坊が子犬を火事から救うといった非現実的な場面、指の本数、動画の長さ(長いほど破綻が出やすいため短尺に留める作り手が多い)です。あえて低画質・遠景風にして不整合を隠す手口も頻出します。逆に、抗議デモや戦場という文脈に合わない完璧な髪型・肌・左右対称の顔も赤信号です。遠近法や物理法則の破綻、辻褄の合わない(あるいは存在しない)影、不自然に垂れるアクセサリー、崩れた反射も手がかりになります。なお、AI動画をフィードから完全に除外する機能は、まだ提供されていません。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業にとって直撃するのは、YouTubeを低コストの量産チャネルと見なしてきた運用です。EC事業者が商品紹介動画を生成AIで大量生産する施策、代理店や受託開発会社が「AI活用で動画量産」を売り物にしてきた提案は、収益化前提なら組み直しが要ります。ただし本質は収益化可否ではありません。自社チャネルでの集客が目的なら収益化条件は直接効きませんが、「inauthentic」と見なされる質の動画がブランドに与える損失のほうが大きい。AIに肯定的な回答者が26パーセントという数字は、AI感が透けた瞬間に信頼が減点される市場だという警告です。
最も注意すべきは金融・保険・医療・人材など、助言性の高い領域です。「AIペルソナ」への規制は、AIキャラクターに商品説明や相談対応をさせる施策が、プラットフォーム横断で規制対象になりつつある兆候と読むべきです。LinkedInも同方向に動いています。役員が今すべきは、AI生成物の一律禁止でもフル解禁でもなく、(1)助言性の高い発信はAIペルソナに任せない、(2)生成物には人の編集・検証工程を必ず挟み、その記録を残す、(3)外注先の納品物にAI生成の有無と編集工程の開示を契約要件として入れる——この三点の社内規程化です。プラットフォームの基準が「手段」から「人の関与」へ移った以上、関与を証明できる体制そのものが資産になります。