何が起きたか
TechCrunchのセキュリティ担当記者Lorenzo Franceschi-Bicchierai氏が、AIプラットフォームのアカウント乗っ取りを確認・遮断する手順をまとめました。同社が以前公開した「主要プラットフォームやSNS、メッセージアプリのアカウント侵害チェックガイド」をAIサービスに拡張した内容です。
手順自体は難しくありません。ChatGPTはブラウザで左下のユーザー名から「Settings」→「Security and Login」→「Active Sessions」を開くと、どこからログインしているかが分かります。見覚えのない端末を個別にログアウトすることも、「Log out all」で一括遮断することもできます。パスワード変更は少し変則的で、いったんログアウトしてから左下の「Log in」→メールアドレス入力→「Forgot password」→「Continue」と進み、届いた6桁のコードを入力して新しいパスワードを設定します。
Claudeは左下のユーザー名から「Settings」→「Account」に「Active sessions」が並びます。不審なセッションにカーソルを合わせると右側に縦three dotsのメニューが出るので「Log out」または「Terminate」を選ぶか、「Log out of all devices」でまとめて遮断します。
Claudeに「パスワード変更」が存在しない理由
注目すべきはClaudeの認証方式です。Anthropicのチャットボットはパスワードを一切使わず、メールアドレス宛に送られるログインリンクで認証します。そのためChatGPTやPerplexityが備える多要素認証(MFA)の設定項目がなく、同時に「変更すべきパスワード」も存在しません。
これは弱点というより設計思想の違いです。パスワードが存在しなければ、漏洩リストからの使い回し攻撃も、フィッシングでパスワードを抜かれる経路も消えます。ただし裏を返せば、セキュリティの重心がすべてメールアカウントに移るということです。メールが乗っ取られた時点でClaudeも一緒に落ちる。この依存関係は運用設計の前提として押さえておく必要があります。
Perplexityの「見えない」問題
一方でPerplexityは、ユーザーにログイン場所を表示しません。左下のユーザー名から「All settings」→「Sign out of all sessions」→「Confirm」で全セッションを遮断できるだけで、そもそも不審な端末がいるかどうかを確認する手段がないのです。再ログインはメールアドレスに届く6桁のコード、またはメール内の「Sign in」ボタンから行います。
つまりPerplexityでは「侵害を検知してから対処する」ができず、「怪しいと思ったら全部落とす」しか選べません。異常検知の可視性がないサービスを業務で使うということが何を意味するのか、ここは分けて考えるべき論点です。
前提としてのアカウント衛生
TechCrunchの一般的な推奨は明快です。パスワードマネージャーで使い回しのないパスワードを管理し、MFAを有効にする。MFAがあればパスワードだけ盗まれてもログインは成立しません。ChatGPTとPerplexityはMFAを提供しています。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
役員が直視すべきなのは、AIアカウントがすでに「社内文書の縮図」になっている点です。ChatGPTやClaudeの履歴には、未発表の事業計画、顧客リスト、見積根拠、ソースコードが会話ログとして蓄積されています。従来の情報漏洩対策はファイルサーバーとメールを守ってきましたが、実質的な機密の集積地はチャット履歴に移りつつあります。
特にリスクが高いのは3類型です。第一に受託開発・SIer——顧客のコードや仕様を貼り付けた履歴が流出すれば、契約上の守秘義務違反に直結します。第二にEC事業者——商品戦略や価格設計の相談履歴は競合にとって一級の情報です。第三にSaaS——プロダクトロードマップや解約分析がそのまま残ります。
今週やるべきことは3つ。①部門長にActive Sessions確認を指示し、退職者・業務委託終了者のセッションが残っていないか棚卸しする。②Claudeを使う従業員のメールアカウントのMFAを最優先で固める(Claudeにパスワードがない以上、メールが唯一の鍵です)。③Perplexityはセッション可視化がないため、機密度の高い検索用途では使わせないか、定期的な全サインアウトを運用に組み込む。
AI利用ガイドラインに「入力してよい情報の範囲」を書いた企業は増えましたが、「アカウント自体が奪われた場合」を書いた企業はほとんどありません。そこが次の穴です。