何が起きたか

Similarwebの集計によれば、AIチャットボットのWebサイトトラフィックにおけるChatGPTのシェアは55.5%。3か月前の52.7%から反発しました。直近で猛追していたGoogle Geminiは27.8%から25.6%へと勢いを落としています。AnthropicのClaudeは1年前の1.9%から9.3%へ拡大。DeepSeekが3.4%、Grokが2.4%、Copilotが1.6%、Perplexityが0.9%で、上位3社以外は横ばいのままです。

短期の数字だけを見るとChatGPTの「復活」に見えますが、時間軸を1年に広げると絵は変わります。1年前のChatGPTは73.3%。つまり直近の回復は、大きく削られたシェアが下げ止まった局面と読むのが妥当です。GeminiとClaudeが取ったぶんが、そのまま差分になっています。

なぜこの数字を額面通り受け取れないか

重要な前提は、この統計がWebサイトのトラフィックのみを対象にしている点です。ここに主戦場のかなりの部分が入っていません。

GoogleはAndroidエコシステムを通じてGeminiのモバイル利用を大量に生んでいると見られます。プッシュ通知はWebリンクではなく、要約を添えてGeminiアプリを直接開く設計になっており、この経路はWeb統計には現れません。OpenAI側も同様で、ChatGPTのモバイルアプリ、そして新しいデスクトップ版のChatGPT Workは、いずれも数字に反映されていません。

つまりこの調査が測っているのは「ブラウザで開くAI」という一つのチャネルであり、AI利用の総量ではありません。GeminiのWebシェア低下が、そのまま利用実態の後退を意味するとは限らない——ここを取り違えると、ベンダー選定の判断を誤ります。

見るべき論点は「三強化」

それでも読み取れる構造変化はあります。1年前は事実上ChatGPTの一強でした。現在はChatGPT・Gemini・Claudeの3つで9割超を占め、DeepSeek、Grok、Copilot、Perplexityは合計しても8%台にとどまります。中位陣が伸び悩む一方、上位3社の間で配分が動いている——これが今のフェーズです。

特に注目すべきはClaudeの1.9%→9.3%という伸び方です。一般消費者向けの認知度で言えばChatGPTやGeminiに及ばない中でこの伸長を示したことは、利用者層の性質が他と異なる可能性を示唆します。ただし、Similarwebのデータは用途別の内訳を示していないため、その中身までは断定できません。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

経営判断として押さえるべきは2点です。

第一に、「シェア1位だから標準」という選定ロジックはもう成立しないこと。1年で73.3%が55.5%になる市場で、単一ベンダー前提の設計は陳腐化リスクを抱えます。SaaS事業者や受託開発会社は、LLM呼び出し部分を抽象化し、モデルを差し替えられる構造にしておくのが実務的な保険です。すでにOpenAI固定で実装している場合、この切り替えコストを一度見積もっておく価値があります。

第二に、Web統計に映らない領域が競争の本丸であること。GoogleがAndroidの通知からGeminiアプリへ直接誘導している構造は、日本企業のマーケティング担当にとって他人事ではありません。自社サイトへの流入経路が、検索からAIアプリ内の要約へ移るとき、ECやメディア事業は「クリックされない前提」の接点設計を迫られます。

事業責任者が今やるべきは、ベンダー比較表の更新ではなく、(1)自社プロダクトのモデル依存度の棚卸し、(2)AI経由の流入・非流入の実測、の2つです。Claudeが1.9%から9.3%へ動いた1年と同じ幅の変化が、次の1年にも起こり得ると想定して設計してください。