何が起きたか

VentureBeatの調査部門VB Intelligenceが実施したVB Pulse調査で、107社の企業におけるAIエージェント基盤の使われ方が明らかになりました。回答者はソフトウェア/機械学習エンジニア、プロダクト・プログラムマネージャー、データ/AI/アナリティクス部門のVP・ディレクター層です。

結果は明快でした。85%が2つ以上のオーケストレーションツールを併用し、64%が3つを使用。単一プラットフォームで完結しているのは15%にとどまります。採用率はMicrosoft AI Foundry/Copilot Studioが70%、OpenAIのAgents SDKが68%、AnthropicのClaude Platformが47%。加えてGoogleのEnterprise Agent Platform、LangChain/LangGraph、Salesforce Agentforce、Amazon Bedrock、LlamaIndexが並び、22%はベンダー製品を補完する自社製オーケストレーションを走らせています。

なぜ重要か

注目すべきは、この併用が「移行期の一時的な混乱」ではなく意図的な設計思想として選ばれている点です。理由はベンダーロックイン回避や柔軟性の確保だけではありません。調査は、ベンダーのセキュリティ・権限管理能力に対する不確実性、さらには不信があり、企業が自前の統制を被せたがっていると指摘しています。プラットフォーム選定時の懸念のトップがセキュリティ・権限管理の制約(37%)で、ロックイン(23%)、可視性・オブザーバビリティの不足(22%)、モデルやツールの選択の硬直性(16%)が続く構図がそれを裏づけます。

実際、53%が2026年末までに主たるコントロールプレーンは「ハイブリッド」になると回答。プロバイダー提供のマネージドサービスは14%、自社製コントロールプレーンは13%、モデルプロバイダーから抽象化された外部プラットフォームは11%です。勝者を1社に決めるのではなく、複数の基盤・モデル・エージェントが相互に噛み合う前提で設計する——それが現在の主流の構えです。

動く市場と、止められない支出

この領域はまだ固まっていません。3分の2超が1年以内にプラットフォームを変更する計画で、内訳は3カ月以内が15%、3〜6カ月が24%、6〜12カ月が28%。検討中のツールではClaude Agent SDKが43%でトップ、GoogleのEnterprise Agent Platformが約3分の1、自社製オーケストレーションが31%、OpenAIの選択肢が25%と続きます。現在の主要利用はMicrosoftが先行する一方、「次に検討するもの」ではAnthropicが大きく引き離しているという逆転が起きています。

満足度は全体で5点満点の4.17。ただし導入の容易さは3.91、費用対効果は3.63と低く、使えるが高くて面倒という評価が透けます。

そして最も切実な数字が、5社に1社は暴走したエージェントの支出をリアルタイムで止められないという事実です。コスト管理策は、プラットフォーム標準の予算上限やスロットリングが30%、暴走エージェントを遮断するプロキシ型の自社ゲートウェイ構築が25%、重い処理を低コストモデルに逃がす動的ルーティングが約4分の1、そして21%は事後ログなど受動的な監視のみでキルスイッチを持ちません。前回調査と違い、企業規模による差はほとんどなく、従業員1万人超でも18%が受動的統制のみ(中小規模は23%)。予算も人員もある大企業ですら安全装置が付いていないということです。

この状況を反映して、支出の優先順位も動きました。エージェントの監視・デバッグが31%、セキュリティと権限の強制が30%、ワークフローツールが19%。1カ月前の前回調査ではワークフローツールが単独首位でしたから、「作る」から「見る・止める」へ重心が移ったことになります。最適化対象もタスク完遂の信頼性(30%)、複数ステップのワークフロー管理(27%)、開発者生産性(23%)、運用安定性(13%)が上位で、エンドユーザー体験を挙げたのは7%にすぎません。

「エージェント」の実態はまだ薄い

成熟度の数字は冷静に読むべきです。システムの76〜100%が高度で自律的だと答えたのは2%、51〜75%が複雑なマルチエージェントパイプラインだとしたのは14%。47%は26〜50%が本当のオーケストレーションだと答え、35%は1〜25%にすぎず大半は基本的なアシスタント止まり。3%はまだチャットボットのみです。VBの6月調査で、デプロイ済み「エージェント」のうち複数ステップを自律完遂できるのは4分の1以下と答えた回答者が71%、規模を伴う本番展開に至ったのは10分の1だったという結果とも整合します。3つの基盤を並走させながら、その上で動いているものの多くはまだ自律的なエージェントではない——これが2026年時点の現実です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業の事業責任者がこの調査から取るべき示唆は3つあります。

第一に、「AI基盤を1社に統一する」という稟議の前提を疑うべきです。単一基盤運用は15%の少数派で、53%がハイブリッドを見込んでいます。にもかかわらず日本企業ではMicrosoft 365やAzureとの既存契約を理由にCopilot Studioへ一本化する意思決定が起きがちで��。採用率70%のMicrosoftが「次の検討先」ではAnthropicに大きく水をあけられている事実は、いま結ぶ複数年契約が3年後の選択肢を狭めるリスクを示します。モデルとオーケストレーションを分離し、差し替え可能な形で契約・実装することを設計要件に入れてください。

第二に、CFO・情シス責任者は「キルスイッチの有無」を今週中に確認すべきです。5社に1社が暴走支出を止められず、しかも1万人超企業でも18%が事後ログ頼み。ECやSaaSで顧客対応エージェントを本番投入している企業なら、深夜のループ1件で月次予算が溶ける構図です。25%が採っているプロキシ型ゲートウェイ、つまりAPI呼び出しを自社中継して閾値で遮断する仕組みは、内製で数人日の投資です。監視・デバッグとセキュリティ強制に支出の6割が向かっている流れに、日本企業も予算配分を合わせるべきでしょう。

第三に、受託開発・SIerにとってはこれが商機です。3分の2超が1年以内に基盤を乗り換え、31%が自社製オーケストレーションを検討している。つまり「複数基盤をまたぐコントロールプレーンの設計・実装」と「エージェント支出のガバナンス構築」が、単発のPoC案件より継続性のある提案領域になります。逆に特定ベンダーの認定資格だけで勝負する体制は、この流動性の中で急速に価値を失います。