何が検討されているのか

Politicoが木曜に報じた内容は、これまでの半導体関税の議論とは範囲が違います。関係者約8人が匿名を条件に語ったところでは、検討中の枠組みのひとつは課税対象製品を大幅に拡大し、チップ単体ではなく、それを使って作られた製品——ゲーム機や、データセンターを埋めるサーバー——まで巻き込む可能性があります。枠組みは最終化の過程で変わりうるとされています。

トランプ政権は今年すでに、狭い範囲の半導体関税を発動していますが、そこではデータセンターが明示的に除外されていました。今回の焦点は、その除外が生き残るかどうかです。商務省は7月1日に判断材料となる報告書を提出済みですが未公表で、The Next Webはこれが業界ロビイストとの協議の中心にあるとみています。

なぜ「AI政策の自己矛盾」と言われるのか

業界の反発が強い理由は、時間軸のズレにあります。国内の半導体工場は建設に数年かかる一方、AIデータセンターの建設は今まさに進行中です。つまり企業は関税の有無にかかわらず、当面は輸入チップに依存し続けるしかない。The Next Webは「国内供給が建設需要に間に合うタイムラインは存在しない」と指摘しています。ある業界団体の関係者(第1次トランプ政権にも在籍)はPoliticoに対し「AI覇権を追求する方法として考えうる限り最も愚か。スタートラインで自分の膝を撃つようなものだ」と語りました。

供給制約も追い風にはなりません。ハイエンド半導体は2027年に入っても品薄が続くと予測され、Gartnerは価格上昇を背景に世界の半導体売上高が2026年に1.6兆ドルへ達すると見込んでいます。関税は、すでに高い調達コストにさらに上乗せされる形になります。

「量を約束すれば免税」というルトニック案の穴

商務長官のハワード・ルトニック氏は、サプライチェーン国内回帰を優先し関税を広く適用すべきだという立場だと報じられています。4人の情報筋によれば、同氏は一定量のチップを無税で輸入できる枠を設け、その枠の大きさを各社が米国内で生産すると約束した量に連動させる制度の発表を計画しています。

批判の核心は、この枠が実需に届かない点です。ある業界関係者はPoliticoに「計算がまるで合わない」「話に出ている無税枠の量では、ハイパースケーラーだけでも足りない。そもそも国内に生産能力がないから物理的に買えないチップだ」と述べています。国別に異なる税率を設ける案も検討されており、企業のサプライチェーン計算はさらに複雑になります。

誰が損をし、誰が得をするか

Politicoは、海外の製造委託先に依存するNvidiaやAdvanced Micro Devicesといった米国の設計企業が打撃を受け、関税の対象外である海外勢と競合するAppleのような企業も不利になると指摘します。逆に、チップ供給側が関税回避のため中国での取引を増やせば、中国企業が利益を得る可能性がある——CCIAが警告する「データセンター開発が米国外に流れる」という逆効果と同じ構図です。

CCIAは5月、財務長官スコット・ベッセント氏宛に約20の業界団体と連名で書簡を送り、スマートフォン・ノートPC・タブレット・スマートウォッチ・接続機器・自動車の消費者価格上昇と、AI搭載機器を含む新製品投入の遅れによる選択肢の縮小を警告しました。書簡は「消費者向けデバイスこそが米国人がAIツールに触れる主要な入口だ」とし、デバイス市場から消費者を締め出す関税はAI普及そのものを遅らせると主張しています。

業界側の要望は、半導体と派生製品への関税を完全に回避することですが、それが無理なら、半導体含有量が僅少な製品の除外、重量や価値に基づくデミニミス基準、中古品の出所証明が困難な実態への配慮、既存書類だけで済む手続きなどを求めています。最大の要望は、派生製品内の半導体と製品本体の双方に課税される「二重取り」を避けることです。CCIAは代替案として、AIサーバー向け半導体の除外と、想定される25%から10%への税率引き下げも提示しました。

夏以降、業界とトランプ政権高官の接触頻度は上がっていますが、情報筋によれば協議は最近になって悪い方向に傾き、望む除外は得られない可能性があります。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業にとって、これは「米国の話」では終わりません。第一に、米国内にAIワークロードを置いているSaaS・ゲーム・EC事業者は、データセンター案件の約20%が遅延・中止という試算が現実化した場合、GPUインスタンスの調達難と値上げに直面します。米国リージョン一極集中の設計は、いまのうちに国内・アジアリージョンへの分散可否を技術的に検証しておくべきです。

第二に、対象が「チップを使った製品」に���がるなら、車載機器・スマートウォッチ・接続機器を米国へ輸出する日本の製造業は直撃を受けます。特に懸念すべきは業界が最も嫌がっている「二重取り」で、部品内チップと完成品の両方に課税されればBOM原価の前提が崩れます。段階導入や国別税率の可能性を踏まえ、HSコード単位で半導体含有比率を洗い出し、デミニミス基準が導入された場合の該当可否をいま試算しておく価値があります。

第三に、受託開発・SIerは顧客のAI基盤コスト前提が動くリスクを見込むべきです。逆に、米国外へのデータセンター流出が起きれば、国内DC・電力・冷却まわりには追い風が吹きます。経営としては「関税確定を待って動く」のではなく、25%案と10%案の二本立てでコストシナリオを持ち、調達契約に価格改定条項があるかを今週中に確認するのが現実的な一手です。

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