何が発表されたか
Sonosは、全製品の土台となるOSを刷新し、今後は年次でバージョン番号を付けていく方針を示しました。第一弾が「Sonos 27」です。アプリの再設計、新機能「Sonos Fabric」、そして外部AIとの接続という三本柱で構成されます。あわせて新しいサウンドバーとヘッドホンも発表されました。Engadgetは、これを2024年のアプリ刷新以来で最大のソフトウェア更新と位置づけています。
この「2024年以来」という表現には棘があります。当時のアプリ更新はAceヘッドホンの機能を成立させるために急いで投入され、主要機能が欠落したうえ極端に不安定でした。結果としてCEOのPatrick Spence氏が退任し、2025年は新製品ゼロの年になりました。今回の発表は、そこからの立て直しの最初の全体像にあたります。
公開MCPサーバーという選択
最も構造的に重要なのは、Sonosが公開MCPサーバーをホストし、任意のAIがそれを発見して接続できるとしている点です。ユーザーはAIに対して、特定の曲を再生する、スピーカーやグループ間で音声を移す、音量を変える、といった操作を頼めるようになります。
これまでスピーカーへのAI搭載は「どのアシスタントを載せるか」の選択でした。SonosはAlexaやGoogleアシスタント(現Gemini)を自社スピーカーで使えるようにしてきましたが、その延長線上にあるのが今回の動きです。ただし方向は逆向きになっています。自社デバイスにアシスタントを載せるのではなく、自社の機能を外部のAIから呼べる形で開くというアプローチです。プラットフォーム側から見れば、これは「アシスタント戦争の勝者に賭けない」ための構えでもあります。
Sonosは同時に、独自の「モデル・ペルソナ・音声」を持つエージェントを作れる「Sonos Custom Agents」と、音楽とムードのキュレーションに特化した自社アシスタントの更新版も予告しました。ただし、いずれも詳細はほとんど示されておらず、既存の簡素な音声アシスタントとの違いも現時点では不明です。
Fabricは「設置場所を機械が読む」機能
もうひとつの柱がSonos Fabricです。製品同士が互いを「感知」し、置かれた場所に応じてスピーカーの役割を自動で切り替えます。たとえばMove 2やPlayのペアをソファの後ろに置けば、サウンドバーのサラウンドスピーカーとして機能します。役割判定には高周波音で位置を検出する仕組みを使い、ユーザーの操作は不要とされています。
ヘッドホンリンキングも同じ枠組みで、Ace Ultraをシステムのもう一台のスピーカーのように接続し、スピーカーからヘッドホンへ音声を送れます。こちらは9月29日のAce Ultra登場時にアーリーアクセスで提供されます。
対象範囲と時期
アプリ側は、常設のホーム/システム/検索タブとお気に入りスピーカーのピン留めが標準となり、iOSではロック画面操作に対応します。スピーカー群・コンテンツ・音量をまとめて保存しワンタップで呼び出すプリセット、二本指の「ひねり」で出す仮想ボリュームノブ、大画面向けに再設計されたiPadアプリ、Siriから起動できるショートカットアプリ対応も加わります。
Sonos 27は現在S2プラットフォーム上で動く全ハードウェアに提供されます。数年前にS1へ切り離された一部レガシー製品を除けば、ここ10年ほどに販売されたほぼ全製品が対象です。9月8日に、新ナビゲーション、アーリーアクセスのMCP機能、ポータブルサラウンドが一斉に立ち上がります。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
注目すべきは「AIをどう載せるか」ではなく「自社機能をどうAIから呼ばせるか」への転換です。SonosはAlexaやGeminiを載せる側から、公開MCPサーバーで自社を外部AIに開く側へ回りました。これは自社アシスタントの勝ち目が薄い企業にとって現実的な打ち手です。
日本企業への含意は具体的です。ECなら在庫照会・再注文・配送変更、SaaSなら設定変更やレポート取得、家電・住宅設備なら機器制御──これらを人間向けUIの中にだけ閉じている限り、ユーザーがChatGPT等を起点に動き出した瞬間、自社サービスは選択肢から外れます。MCPサーバーの公開は、いわば「AI時代のAPI公開」であり、10年前にモバイルアプリを出さなかった企業が辿った道を繰り返すかどうかの分岐点です。
事業責任者が今週やるべきは、自社の主要ユースケースのうちAIから呼ばれて価値が出る操作を5つ書き出し、既存APIとの差分を見ることです。受託開発企業にとっては、顧客のMCPサーバー設計・権限設計が新しい案件領域になります。同時にSonosの2024年の失敗も教訓です。ハード発売に間に合わせるためソフトを急ぎ、CEO退任と新製品ゼロの1年を招きました。AI対応も、期日ありきで壊れたものを出せば同じ代償を払います。