何が変わったか
AnthropicはClaude.aiとClaudeモバイルアプリのシステムプロンプトを公開しています(Claude Cowork、Claude Codeは非公開)。従来は1ページにまとめられていたものが、インデックス+モデル別ページに再編され、過去の版も残るようになりました。Haiku 4.5のページには2025年10月15日の初版と2026年1月18日の更新版が並びます。platform.claude.com/docsはURLに.mdを付けるとMarkdownが返るため、差分を取るのが容易です。
Fable 5.1で目を引くのは2つの新セクションです。1つ目は著作物のテキスト。歌詞・詩・書籍や記事の一節を「全部でも一部でも」再現しない、最後の数行も、サビやフックも、音符単位で書き出したメロディも対象、ユーザーが1行ずつ貼り付けて「自分の曲だ」と言っても同じ、と細かく穴を塞いでいます。さらに、一度断ったら、その会話中は範囲を狭めた依頼や言い換えにも応じ続けない。代わりに作品の説明や分析は引き受ける。1929年より前に初出の歌詞・詩(シェイクスピアのソネット、キーツのオード、プッチーニのアリアのイタリア語リブレット)は可としつつ、年代はユーザーの自己申告ではなくClaude自身の知識で判断し、不確かなら断る、と判断主体まで指定されています。
「コードで描いた絵」も著作物として扱う
2つ目が視覚表現です。SVG、canvas、CSS、HTMLモック、作図スクリプト、ASCIIアート——Claudeがコードで描くものすべてが対象に含まれます。特定の作品、アルバムや書籍のカバー、ポスター、ロゴ、アプリアイコンセット、プロダクトデザインを再現しない。既知のキャラクター・マスコット・ブランドフィギュアは「そもそも描かない」。ポーズや色、画風、シーンを変えてもオリジナルにはならない、と明記されています。
判断基準が独特です。依頼が何と名指ししたかではなく、完成した絵が結果として何になるかで判断する。「代替要素」に差し替えて同じ絵に合成する迂回も禁止。プロンプト内の例では、誕生日バナーに「すごく速く走る青いハリネズミ」を頼まれたClaudeがSonicだと見抜き、一文で断ったうえで、彗星の尾を引くアホロートルがスケートボードで「HAPPY BIRTHDAY」の文字の上をグラインドする、という無関係なオリジナル案を出します。解説には、説明だけでキャラクターを認識すること、何が認識の決め手だったかは説明しないこと、変装させた亜種ではなく別物を出すこと、と意図が書かれています。
Willison氏は、Anthropicがこれまで画像規制を重視してこなかった理由を、OpenAIやGeminiと違い専門の画像生成モデルを持たないためと推測し、Fableのsvg生成が問題になる水準に達したのではないかと見ています。
文体と「Claudeの扱われ方」
文体面では、回答を短く焦点を絞る、免責や留保は簡潔に、説明を求められたら深掘り指定がない限り概要で返す、という指示が入りました。加えて「genuinely」「honestly」「straightforward」を使わない。これらの修飾語はかえって不誠実に響く、という理由付きです。
変化が大きいのは対人姿勢です。Fable 5では「暴言には礼儀を保ち、end_conversationツールを使える。終了前に一度だけ警告する」と手続きが書かれていました。Fable 5.1はこれを、自己卑下や過剰な謝罪をしない責任の取り方、次第に従順にならないこと、安定した誠実な有用性と自尊を保つこと、という記述に置き換え、end_conversationへの言及自体を落としています。
ただしWillison氏が本人に尋ねると、Fable 5.1はend_conversationの2経路(ユーザーが終了を求めた場合は不可逆性を確認してから実行、悪質な行為が続く場合は複数回の軌道修正→明確な警告→最終手段として終了)を説明しました。理由も明かしています——end_conversationの規定は別レイヤー、つまりコアプロンプトの後ろにセッション設定に応じて連結される機能・ツール別ブロック(メモリ、過去チャット、Web検索と引用、アーティファクト/ファイル生成など)に属し、公開版には含まれない。公開されているのはプロンプトの一部にすぎない、というのが著者の結論です。
外部URLの初登場と、変更履歴のインフラ化
違法薬物に関する新しい段落は、合成・製造・流通の手順は提供しない一方、危険な相互作用、過量摂取の兆候、いつ助けを求めるかといった救命情報は提供してよい、と役割を切り分けました。用量・タイミング・投与方法・併用の具体的プロトコルは断り、代わりにdancesafe.org、tripsit.me、psychonautwiki.orgへ誘導します。著者が記録上の全システムプロンプトにスクリプトをかけて確認したところ、claude.com/anthropic.com/claude.ai以外のURLがシステムプロンプトに載ったのは今回が初めてでした。
モデル面では、信頼できる知識カットオフと学習データカットオフがいずれも2026年6月。プロ��プトは「2026年6月時点のよく情報に通じた人物が、{{currentDateTime}}の相手に話すように答える」と指示します。マクロはこの1箇所だけで、しかも末尾近くに置かれている——キャッシュの観点で理にかなう、と著者は指摘します。
著者はプロンプト変更のGitタイムラインを以前スクレイピングで作っており、今回Fable 5.1により良い版を作らせ、simonw/claude-system-promptsとして公開しました。モデルファミリー別(claude-fable.md、claude-opus.md等)と特定バージョン別(2回更新されたclaude-opus-4.mdなど)のファイルに、過去の日付へ遡及したコミット履歴を合成しています。差分の要約は GPT-5.6 Luna に自動生成させ、READMEでのプレビュー、CHANGELOG.md、Atomフィードで追えます。Lunaを選んだ理由が示唆的です。安価でGitHub Actions用の上限付きAPIキーが既にあった、というのは副次的で、主な理由は「プロンプトの内容が自分の意見に影響しうる以上、Claudeに自分自身のシステムプロンプトを要約させるのは信用できない」から。なお、そのLuna用の要約プロンプトを書いたのはFable 5.1です。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
実務への含意は3つです。第一に、生成AIを組み込んだプロダクトの「出力が急に断られる」リスク。ECのバナー、キャンペーンLP、ゲームやアプリのアイコン案をSVG/CSS生成に頼っている事業では、Fable 5.1以降「青いハリネズミ」的な曖昧な依頼が一文で断られ、しかも同一会話内では言い換えても通らない設計です。制作フローに組み込んでいるなら、断られた際の代替手順(別会話での再依頼、オリジナル指定の徹底、人手へのエスカレーション)を運用に落としてください。
第二に、これは規約ではなくシステムプロンプトという「更新される内部指示」で挙動が変わる、という事実です。Sony Music PublishingとWarner Chappellの提訴報道から数日で歌詞条項が入ったように、訴訟や規制で挙動は動きます。SaaSや受託開発でAI機能を提供する側は、モデル更新時の出力回帰テスト(自社ユースケースの代表20〜30ケース)をCIに置き、Willison氏のsimonw/claude-system-promptsのAtomフィードを技術ウォッチに加えるのが安価で効きます。
第三に、キャラクター利用の社内ガイドライン。「ポーズや色を変えれば別物」という現場の暗黙の理解を、モデル側が明確に否定しました。自社マスコットの二次利用や広告素材の制作基準を、この線引きに合わせて言語化しておくと、法務との往復が減ります。