何が起きたか
Moonshot AIが2026年7月16日、最新モデル「Kimi K3」を発表しました。パラメータ数は2.8兆で、同社は「初のオープン3Tクラスモデル」(2.8兆を3兆に丸めた表現)と位置づけ、DeepSeekの1.6T「v4 Pro」から王座を奪ったとしています。現時点でWebとAPIで利用でき、オープンウェイトの公開は2026年7月27日を予定しています。
自己申告のベンチマークでは、K3はClaude Opus 4.8 maxやGPT-5.5 highを概ね上回る一方、Claude Fable 5とGPT-5.6 Solには及ばないとされています。第三者のArtificial Analysisによる非公開の「長期知的作業」評価では、K3のEloは1547に達し、前世代K2.6から+732ポイント、Claude Fable 5に次ぐ2位でした。
注目すべきは「価格の転換」
今回の最大の論点は性能そのものより価格です。K3のAPI価格は入力$3/出力$15(100万トークンあたり)で、Anthropicの「Claude Sonnet」系と同水準。中国AIラボ史上もっとも高価なモデルとなりました。前世代K2.6の$0.95/$4から大幅な値上げです。
これまで中国製モデルの訴求点は「安さ」でした。その代表格がプレミア価格帯に踏み込んだ意味は小さくありません。Artificial Analysisの計測ではタスク単価は$0.94で、GPT-5.6 Sol($1.04)とほぼ同等、Opus 4.8($1.80)の約半分。K3はK2.6より21%少ない出力トークンで回答するため、単価は上がっても総コストは抑えられる設計です。加えてArena.aiのフロントエンドコード部門ではClaude Fable 5を抜いて首位に立っています。
ペリカン・ベンチマークが示す限界
Simon Willison氏は恒例の「自転車に乗るペリカンのSVGを生成させる」テストを実施。OpenRouter経由で入力95トークン・出力16,658トークン(うち推論13,241トークン)を消費し、コストは25セントでした。K3は画像入力にも対応し、生成SVGの内容説明(alt text)も高品質だったとしています。K3の推論強度は現在「max」の1段階のみです。
ただし氏は、21カ月前に始めたこのペリカン・テストがモデル品質との相関をほぼ失っていると指摘します。最大の弱点は、エージェント的なツール呼び出しや長い会話にわたる安定したツール操作をまったく検証できない点にあります。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
「中国製=安い」という前提が崩れ始めた点を、まず読み解くべきです。日本企業がLLMを選ぶ際、これまで中国モデルは「コスト最適化の逃げ道」でした。K3が入力$3/出力$15とClaude Sonnet並みの価格を付けたことで、単純な単価比較では優位が消えます。
SaaSや受託開発で自社プロダクトにAPIを組み込む事業者は、価格ではなく「出力トークン効率」と「エージェント適性」で評価軸を組み直すべきです。K3はK2.6比21%少ない出力で回答し、タスク単価はOpus 4.8の約半分。総コストで見れば依然として競争力があります。
一方、ペリカン・テストが示すように、ベンチマーク上位=業務で使えるとは限りません。長い会話でのツール操作の安定性こそが実務の要です。役員は「ベンチ順位」で意思決定せず、自社の実ワークフロー(社内文書検索、コード生成、顧客対応)でPoCを回し、7月27日のオープンウェイト公開後に自社インフラでの実行コストも含めて再評価する体制を今から敷いておくべきです。