何が起きたか

大企業を顧客に持つコンサルタントのNik Sureshが、自身が関わる大企業を覆うAI熱狂について、匿名の情報源から得た逸話を交えて論考を公開しました(2026年7月19日)。共通するのは、内容を理解しないままAIを推進する経営層の姿です。

最も極端な例として彼が挙げるのは、年商20億ドル($2B)超の組織向けにAIを全面に据えた技術戦略を策定した直後の役員が、「ChatGPTもその他のAIツールも人生で一度も使ったことがない」と告白したケースです。戦略の中身を、実際に触れた経験ゼロのまま決めていたわけです。

現場で何が起きているか

熱狂は現場の行動もゆがめます。トークン利用量のリーダーボード(利用ランキング)を導入した企業のエンジニアは、自分の職を守るために「GoのリポジトリのコピーをチェックアウトしてAIにZigで全書き換えさせ、その間に自分は別の作業をする」と語ったといいます。生産性向上ではなく、利用実績の数字づくりが目的化しています。

なぜ止まらないのか

Sureshが引くもう一つの証言は、この熱狂が構造的に是正されにくい理由を示します。顧客側の役員が「100倍の生産性を達成した」といった非現実的な主張をしても、ベンダー側の役員はそれを否定しません。否定すれば顧客役員の信用を損ない、攻撃(あるいは異端)とみなされ、エンタープライズ契約の解約につながりかねないからです。組織の使命の中核でもない論点で顧客役員の信用を傷つけることは、「クビになる方法」だと表現されています。誰も皇帝が裸だと言えない構図です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業にとっても他人事ではありません。「まずAIありき」でトップダウンの全社方針が下りてくる場面が増えていますが、意思決定者自身がツールを触っていなければ、Sureshの言う「20億ドル企業の未経験役員」と同じ穴に落ちます。特にSaaSベンダーや受託開発企業は、顧客役員の「100倍生産性」といった過大な期待に迎合しがちで、営業上その虚構を否定できない力学が働く点を自覚すべきです。短期の契約を守るために非現実的な前提に乗れば、後で成果が出ずに信頼を失います。経営者・事業責任者が今すべきは三つです。第一に、AI戦略を決める人間が最低限そのツールを自分で使うことを必須要件にする。第二に、トークン利用量のような代理指標をKPIにしないこと——リーダーボードは「職を守るための無駄書き換え」を誘発します。第三に、社内・取引先の生産性主張を額面で受けず、実測ベースで検証する仕組みを持つこと。熱狂の中で「効いていない」と言える体制こそが、事業防衛になります。

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