何が起きたか

IntelのCEOを2024年末に退任したパット・ゲルシンガー氏が、次の一手を選ぶために「100日間で100回のミーティング」を重ね、政府・大学・CEO職・プライベートエクイティ(PE)などを比較検討した末に、ベンチャーキャピタルの道を選びました。2025年3月、ディープテックに特化するVC「Playground Capital」のゼネラルパートナー就任を発表しています。WIREDが7月上旬、パリのRAISE Summitで本人に取材しました。

狙いは「ムーアの法則の再覚醒」です。チップ上のトランジスタ数がおよそ2年で倍増するというゴードン・ムーアの予測は、原子スケールまで微細化が進んだ結果、物理の限界に突き当たり、微細化のコストが跳ね上がって停滞しています。ゲルシンガー氏はこの膠着を破る最善の道を、光でチップを刻む「リソグラフィ」の進化に見ています。

なぜ光なのか

現在の最先端リソグラフィはオランダのASMLが握り、波長13.5ナノメートルの光でチップを描いています。ゲルシンガー氏が取締役に就いたxLightは、より短い波長——自由電子レーザーによる5・4・3・2ナノメートル——の光源を開発し、米政府からも出資を受けました。同氏は「xLightはASMLの対抗ではなく、ASMLと共にある」と語り、xLightの光源をASMLの装置に接続して性能を引き上げる構想を示します。「光こそが最も重要だ」というわけです。

AIが変えたディープテック投資

ゲルシンガー氏がPEを退けたのは、小切手は大きいが技術への集中度が低いからだといいます。「AIがディープテックのベンチャー投資を変えた。市場を制さずとも、そこそこのシェアを取れば桁外れのリターンが出る」。半導体業界は2024年時点で2030年に売上1兆ドル到達を目標としていましたが、AIが牽引し、その達成は来年に前倒しされる見込みだと語ります。

論点はチップだけではありません。ゲルシンガー氏はAI推論(inference)への揺り戻しを指摘し、NVIDIAですら自社GPUがすべての推論に最適ではないと認めた(Groqとの提携が象徴)とみます。高帯域メモリ(HBM)を「厄介な技術」と呼び、d-Matrix・Fractile・Cerebrasを挙げて、積層メモリ・アーキテクチャが今後10年内に主流になると予測。そして「デジタルAI時代にはエネルギー容量が経済容量だ」として、過去10年の米国の電力容量拡大が年数%にとどまった点を批判します。同氏の投資先Alva Energyは原子力のアップグレードに、他社は効率化のための電圧制御・変換に取り組んでいます。

誰が主導権を握るか

基盤モデルの主導権については、西側の価値観に基づくモデルを望むとして「中国より米国を選ぶ。これは西側諸国が勝つべきレースだ」と明言。規制については、モデルには「プロセスの健全性と、実施されたテストの可視性」が必要で、業界が自ら審査するか政府が介入するかのいずれかだと述べました。主要な基盤モデルがおよそ4週間に1つのペースで登場する現状も指摘しています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業への含意は「半導体=装置産業」という前提の再確認です。リソグラフィの主導権はASMLと、その光源を握る新興勢に移りつつあり、xLightのような光源スタートアップが微細化の律速を左右します。露光・光学・レーザー部材を持つ日本の素材・精密メーカーにとっては、GPU本体でなく「光を作る側」に商機が回帰する構図です。調達・R&D責任者は、次世代波長(2nm級光源)のサプライチェーンに自社部材がどう食い込めるかを今から棚卸しすべきです。

AIを使う事業会社側の論点はエネルギーと推論コストです。「エネルギー容量=経済容量」であり、電力制約が推論単価に直結します。SaaS・ECで生成AI機能を組み込む経営者は、GPU前提のクラウド原価が積層メモリや非GPUチップで数年内に構造変化する可能性を織り込み、長期のインフラ契約を固定しすぎないことが賢明です。受託開発事業者は、HBM依存・GPU依存を前提にした提案の陳腐化リスクを顧客に説明できる知見を今のうちに蓄えるべきです。

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