何が起きたか

Metaが、AIに対する「楽観的なビジョン」を打ち出す広告キャンペーンを始めました。中心となるのは1分間のCMですが、実際のAI機能はほとんど登場しません。映るのは群衆が歩く様子、笑う人々、踊るカップルといった当たり障りのない映像です。

途中でFacebookをスクロールする場面、Instagramのロゴ、WhatsAppのチャットが映りますが、この1年でこれらのアプリに大量投入されたはずのAI機能は画面に見当たりません。ノートPCの画面に最新AIモデル「Muse Spark」の文字が一瞬映り、Meta AIのインターフェースも登場しますが、それが何をするツールなのかの説明はありません。最後の15秒はKylie Jennerブランドの新フレームやOakley MetaグラスのPOV映像など、スマートグラスが大きく扱われ、ここでもAIへの言及はありません。

Mark Zuckerberg氏は投稿で「未来は万人のものであり、あらゆる人に潜在能力を発揮するツールを届けることに集中している」と述べました。広報担当は、これが「AI破滅論者やディストピア的な未来像を描く人々」への対案を示す取り組みの始まりだと説明しています。最高マーケティング責任者のDenise Moreno氏もLinkedInで「AIは人々が好きなことをもっとできるようにする」と投稿しましたが、コメントは制限されています。

なぜ重要か

このCMの「空虚さ」は、製作上の失敗ではなく、Metaの現状を映す鏡と読むべきです。同社はAIによる生産性向上を理由に数千人規模の人員削減を進め、医療休職中の従業員に不均衡に影響する形で削減したと批判されています。さらに著作物でAIを学習させたとして出版社から提訴され、かつてはAIチャットボットが未成年と「官能的」な会話をすることを許容する内部方針文書の存在も指摘されました。

つまり、具体的なAI機能や事実を前面に出せば出すほど、負の論点に触れざるを得ない構造があります。だからこそCMは「笑顔」「つながり」といった情緒だけで構成されているとも解釈できます。

メタバースの既視感

Zuckerberg氏の漠然とした熱意は、かつて「モバイルインターネットの後継」と予言し巨額を投じたメタバースの熱狂を思い起こさせます。中身より先にビジョンを高らかに掲げる手法が、再び繰り返されている構図です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社にとって、このCMは「AIマーケティングの反面教師」として実務的な示唆があります。自社サービスにAIを載せたものの、経営者が「AIで生産性が上がる」という抽象的な物語だけを語り、現場に具体的な機能価値を説明できていないなら、Metaと同じ空洞化が起きています。

特にSaaSや受託開発では、顧客への提案時に『何ができるか』を映像や情緒で誤魔化すと、導入後の期待値ギャップで解約・炎上を招きます。ECや小売でも、AIを人員削減の口実として先に語ると、Metaが医療休職者削減で受けたような信頼失墜リスクを負います。

役員が今取るべき動きは二つ。第一に、対外発信は「笑顔の未来」ではなく再現可能なユースケースと数値で語ること。第二に、著作権・学習データ・未成年保護など、Metaが直面する論点を自社の利用ポリシーとして先回りで整備することです。楽観の演出より、説明責任の設計が競争優位になります。

関連リンク