何が起きたか

WIREDは2026年7月27日、トランプ政権の米国AI政策が、統一された司令塔ではなく各省庁に散らばった少数の高官によって、しばしば対立しながら形づくられている実態を報じました。ある政権幹部はこう表現しています。「これは二つの立場の議論ではない。10の立場がある議論だ」。省庁間の調整がほとんどないため、最終的な政策は「大統領に最も影響力を持つ者」が決める構図になっています。

背景にあるのは、中国のオープンウェイト(重みが公開された)モデルの急速な性能向上です。誰の意見が通るかで、輸出規制の強弱や国内ラボへの支援方針が大きく振れる状況にあります。

主要プレイヤーの立ち位置

商務長官ハワード・ラトニックは、産業安全保障局(BIS)を通じて輸出管理を握るため影響力を強めています。米国トップラボが独自のオープンウェイトモデルを作るインセンティブ設計を検討し、複数ラボ首脳と対話。7月には中国Moonshot AIの「Kimi K3」を、主要ベンチマークで米フロンティアモデルに劣るとX上で牽制しました。一方でAnthropicには輸出管理を科して従わせるなど、規制では中間的な立場を取ります。

ラトニックの筆頭補佐となったのが、商務省内でAI標準・イノベーションセンター(CAISI)の代行トップに就いたアルビンド・ラマンです。CAISIは業界と政府の主要な窓口で、前任のクリス・フォールはAnthropicのFable 5モデルの脱獄(ジェイルブレイク)対策強化をめぐる交渉の末に突如辞任。CAISIは数週間かけて技術的な安全策をまとめ、Fable 5を再稼働できる水準に引き上げました。

国家サイバー長官ショーン・ケアンクロスは中国ラボに強硬で、6月2日の大統領令の枠組み策定に関与。政治キャンペーン弁護士出身でAI経験は乏しいものの、中国が米国トップモデルを蒸留(distillation)で学習することの阻止に注力しています。

元AI担当補佐官デイビッド・サックスは3月に役職を離れた後もXを使い外部から影響力を保持し、6月2日大統領令の規制条項を土壇場で緩めました。財務長官スコット・ベッセントは最も強硬で、蒸留を「知的財産の窃盗」と断じ、中国ラボへの制裁やエンティティリスト入りを警告。9月の習近平訪米、11月のAPECを前に関与を強めています。すべての提案を精査する首席補佐官スージー・ワイルズの判断が最終的に効きます。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

注目すべきは、米国のAI規制が「一枚岩の国家戦略」ではなく、大統領に近い個人の影響力で振れる不安定な構造だという点です。輸出管理を握るBISとCAISIが業界の窓口になっている以上、日本のSaaS・受託開発・EC各社にとって「使えるモデル・使えないモデル」の線引きは、技術的合理性より政治力学で変わりうると織り込むべきです。Fable 5の一時停止と再稼働のように、依存する基盤モデルが数週間単位で止まる事態は現実に起きています。基盤モデルを一社に賭ける設計は経営リスクであり、複数モデルへ切り替え可能なアーキテクチャと契約条項を今から用意すべきです。さらにベッセントが蒸留を「IP窃盗」と呼び、中国製オープンウェイトへの締め付けを強める中、コスト目的で中国系モデルを本番採用している企業は、調達・法務の観点で棚卸しが必要です。ベッセントが「日本や欧州も自前のオープンウェイトを急がねば負ける」と明言した事実は、日本勢にとって国産基盤モデル投資の追い風にも読めます。

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