何が起きたか
Snapは今月(2026年8月)から、完全にAIで生成された動画をSpotlightのレコメンド対象外としました。同社は、低品質で反復的なAI生成コンテンツがネット全体に広がるなか、Spotlightを「実在の人間による本物の創造性」に集中させたいと説明しています。ただし全面禁止ではなく、Snapchat自身のAIツールで編集された動画は引き続き許可され、透明性ラベルが付与されます。
同社によればSpotlightの投稿者は120%以上増加しましたが、そのうちどれだけがAIコンテンツによるものかは公表されていません。
一方LinkedInは、AI生成のノイズの流入に対し「AIスロップ」専用の通報ボタンを導入しました。低品質コンテンツやスパムを扱う既存の通報機能とは別枠で用意されている点が特徴で、The Decoderはこれを問題の深刻度に対する認識の表れだと指摘しています。
なぜ重要か
この2社の動きは、単なるモデレーション強化ではありません。プラットフォームが**「AIで作ったかどうか」をレコメンドの判断材料に格上げした**という点が本質です。これまでAI生成物は「品質が低ければ下がる」扱いでしたが、Snapの措置は品質の高低にかかわらず、生成の出所そのものを配信の可否に結びつけています。
Kapwingの調査ではYouTube Shortsの21%がすでにAI生成で、InstagramやFacebookも同程度と見られています。5本に1本という比率は、もはや例外的な混入ではなく供給構造の一部です。プラットフォームにとってAIコンテンツは、規模の拡大要因であると同時に、フィードの信頼性を損なうリスクでもある——この両義性が、Snapが「自社ツール経由の編集は許可、完全生成はレコメンドしない」という中間解を選んだ理由と読めます。
「作れる」から「配られる」への論点移動
注目すべきは、OpenAIのソーシャル動画アプリSoraが振るわなかったことです。生成能力そのものはコモディティ化しつつあり、AI動画を作れること自体には希少性がありません。価値のボトルネックは生成側から配信側、つまり「誰のフィードに載るか」へ移りました。
LinkedInの通報ボタンには課題も残ります。The Decoderは、この仕組みが悪用されやすく、ユーザー側が「AIスロップ」を正しく見分けられることを前提としている点を指摘しています。AI生成の判定は人間の目視では確実性がなく、正当なコンテンツが通報される余地もあります。判定基準の不透明さは、そこに投稿する企業にとってのリスクでもあります。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
影響が最も直接的なのは、SNS運用で集客してきた日本のEC・D2C事業者です。AI動画で制作コストを圧縮し投稿量を増やす運用は、Snapのようにレコメンド除外が広がれば「作っても配られない」空振りに変わります。まず自社のショート動画在庫を「完全生成」「AIツールで編集」「実写」に棚卸しし、リーチの主軸を実写・実在の人物側に戻す判断が要ります。
BtoB SaaSやコンサル、受託開発など、LinkedInを商談入口にしている企業は別のリスクを負います。AIで量産した投稿は、スパム扱いではなく「AIスロップ」として通報される新しい経路ができました。The Decoderが指摘する通り誤用の余地がある以上、社名アカウントが通報を集める事態は避けたい。生成AIを下書きに使うこと自体は問題ではなく、担当者の実名・具体的な数字・自社案件の一次情報を必ず載せる運用ルールへ切り替えるべきです。
経営判断としては、AI活用の評価指標を「制作本数・単価削減」から「配信されたか・到達したか」へ変えることです。YouTube Shortsの21%がAI生成という水準では、量的な差別化はすでに効きません。役員が今期見るべきは、投稿数ではなく実在性を担保できる制作体制への投資です。