何が起きたか

VB Transform 2026のセッションで、Kilo Code、Replit、倉庫自動化のSymboticの技術責任者が、AIコーディングエージェントへの業務移譲と、そこで膨らむトークン費用の制御方法を語りました。

Kilo CodeのEmilie Schario氏によれば、同社のエンジニアが自らコードを読み書きする時間は全体の約1%で、残りはエージェントが担っています。「何かが本当に壊れているか、デバッグしているときを除けば、99%はもうコードを読み書きしていない」というのが現状です。

SymboticのJared Go氏(AI・クラウド担当ディスティングイッシュト・エンジニア)は、いまの仕事はAIに方向を与えることだと言います。「セキュリティ、エレガンス、クリーンで簡潔なコード、隙のなさ——これが私の基準だ」と提示し、重い作業をAIに任せることで、人間によるコードレビューの比重は下がったとしています。

ReplitのAmol Jain氏(プロダクトエンジニアリング責任者)は「かなりエージェント的になった」一方、AIコーディングには保守的だと述べます。同社ではエージェントが各プルリクをレビューしてリスクスコアを付与し、低リスクなら作成者自身がマージ、それ以外は人間のレビュアーに回ります。同氏はこれを「human in the loop(人が輪の中)ではなく human on the loop(人が輪の上)」と表現しました。

なぜ重要か

論点は「AIが書けるか」から「どこまで任せ、誰が費用と責任を持つか」に移っています。Replitの内製ツールは、エンジニアがタスクを渡すとエージェントが計画・実装・テストまで一気通貫で処理し、トークンプロキシの背後でアクセス制御された専用クラウドVM群として艦隊のように動きます。あるエンジニアが再現も解決もできない厄介なバグを抱えていたとき、マネージャー役のエージェントが「もう寝ろ」と告げ、下位エージェント群が原因を特定、さらに別のエージェント群が修正を見つけ、6時間後にプルリクが届いたという例も紹介されました。

ただしGo氏は、エージェントは強いプロダクト判断をしないため、人間の関与は後工程で必要になると釘を刺します。「ゼロからのコードベース構築(グリーンフィールド)はエージェントには簡単だが、既存コードの追加・更新・保守(ブラウンフィールド)こそが本当の難所だ」——ここが多くの企業の現実です。

モデル選択とトークン費用

ベンダーロックインは崩れつつあり、Kilo Codeのゲートウェイは500以上のモデルに対応します。Schario氏は「エージェント開発に使うソフトウェアは、使うモデルから切り離されているべきだ」と述べ、高価なフロンティア級モデルで設計し、残りは安価なオープンウェイトモデルに切り替える使い方が一般的だと説明します。ルーティングは、閉域・隔離環境、地域プロバイダー、データ保持ポリシー、持ち込んだ鍵、コミットといった制約を織り込む必要があります。Jain氏は、Replitのほうが顧客よりコストと能力のスペクトラムを把握しているとして、コスト最小・能力最大となるモデル選択をユーザーに代わって行っていると語りました。

一方で「トークンマキシング」と呼ばれる利用の可視化と上限設定に動く企業も出ています。Schario氏のもとには「年間のAI予算をうっかり使い切ってしまった。どうすればいい?」という顧客の声も届きました。社内でも、使用量ランキングの常連である“アクセルの重い”エンジニアに対し、定期的に声をかけているといいます。それでも同氏の結論は明快です。日々の作業に600ドルの請求は大きく見えても、完了した仕事量に見合えば正当化される。「問題は支出ではなく、リターンのない支出だ」。だからこそPRあたりコストを、価値に最も近い代理指標として追っています。

Symboticは社員ごとに月額のコストティアを設け、マネージャーがプルリクと利用傾向を見てティアを上下できるツールを作りました。きっかけの一つは、フロンティアモデルでも定額のリクエスト単価が適用されていたCursorの旧割引が終了し、通常価格に移行したこと。全社的な効率の見直しを迫られたとGo氏は振り返ります。社内では「このC#コードにはこのモデルのほうがいい」といった推奨が飛び交うようになりました。

Replitはエージェントをエンジニアリング以外にも広げた結果、サポート部門のあるユーザーがGPT 5.5 Pro Maxで自動化を回し、途方もない額を溶かしていたことが判明します。Jain氏いわく「そこまではROIはかなり明確だった。エンジニアリング生産性が3倍になっていたので、誰も疑問を持たなかった」。同氏が挙げる処方箋は、生産性を阻害しない可視化、モデルルーティング、そして妥当なデフォルト値です。「ほとんどのタスクにフロンティアは要らない」。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業がまず持ち帰るべきは「PRあたりコスト」と「月額ティア」という2つの実装可能な仕組みです。多くの社内AI予算は部門一括の定額枠で管理され、誰がどのタス��にいくら使ったかが見えません。Symboticのように個人単位のティアを設け、マネージャーがプルリク実績を見て上下させる運用は、稟議文化とも相性が良く、明日から設計できます。

受託開発・SIerは影響が最も直接的です。人月単価が前提の見積もりに対し、Kilo Codeの「エンジニアの99%はコードを書かない」水準が現実になれば、原価構造が人件費からトークン費に移ります。工数見積もりと並行して「1機能あたりの推論コスト」を試算し、モデル選択権を自社に残す契約(モデル非依存の実装、鍵の持ち込み、データ保持ポリシーの明示)を今のうちに標準化すべきです。Cursorの割引終了がSymboticに全社見直しを迫った事例は、価格改定が一夜で原価を動かすリスクの実例です。

SaaS・EC事業者は、Replitのリスクスコア方式が現実解です。決済・在庫・個人情報に触れる領域は人間レビュー必須、社内管理画面やA/Bテストの実装は自動マージ、と資産ごとに線引きする。加えてReplitがサポート部門で高額消費を発見したように、エンジニア以外へエージェントを広げる瞬間が最大の支出リスクです。展開前に上限とデフォルトモデルを設定し、「ほとんどのタスクにフロンティアは要らない」を運用ルールに落とすことが、経営側の具体的な一手になります。