何が行われたか
Simon Willison氏は、モデルの実力を測る私的ベンチマークとして知られる「自転車に乗るペリカンのSVGを描かせる」テストを、OpenAIの新モデルGPT-6 Astraに実施しました。生成はlow・medium・high・xhigh・maxの5つの推論レベルで行われ、Astraはreasoning=noneをサポートしません。結果はGPT-5.6 Sol、Terra、Lunaの出力と並べた比較グリッドとして提示され、フル画質のグリッドとGPT-6 Novaのペリカンを生成したトランスクリプトも公開されています。
評価は明快です。GPT-5.6 Solの最良結果(maxではなくxhighが好まれた)は依然として「抽象的な図形の寄せ集め」に見えるのに対し、Astraはlowからxhighまでのすべてがそれを上回り、maxの結果は「really good(本当に良い)」と評されました。ただしmax未満のレベルでは、ペリカンの脚をフレームの両側に確実に配置できていないという弱点も残ります。
なぜ重要か──「単価」ではなく「1タスクあたりの支出」
この比較で経営判断に効くのは、画力そのものより価格の読み方です。Astraは入力100万トークンあたり10ドル、出力100万トークンあたり50ドル。Solは入力5ドル、出力30ドルで、Astraの単価はおよそ2倍です。しかしAstraは各推論レベルで消費トークンが大幅に少なく、結果として実効価格の差は単価ほど開きません。
決定的なのは、Astraのlowが9.55セントで、GPT-5.6 Solのどのレベルよりも良いペリカンを出したという点です。逆に言えば、10セントを他のモデルに投じても、はるかに劣る結果しか得られません。単価表を横に並べて「安いほうを選ぶ」という調達判断が、そのまま誤りになる構図です。
トークン数が漏らしたヒント
もう一つ興味深いのが入力トークン数の差です。同じプロンプトに対し、AstraとLunaがともに16トークン、SolとTerraが26トークンを消費しました。トークナイザーの挙動が一致するということは、系譜が近い可能性を示唆します。Willison氏は「AstraとLunaは、OpenAIが明かした以上に互いに近い関係なのではないか」と述べています。これは公式発表には含まれない観察であり、外形的な数値からモデル系譜を推し量る、独立検証の価値を示す例と言えます。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
まず調達・原価管理の担当役員に効きます。LLMの費用を「100万トークンあたり単価」で管理している企業は、GPT-6 Astraのケースで前提が崩れます。単価2倍のモデルが、消費トークンの少なさで実効コストを縮め、しかも品質は上位——という逆転が起きるからです。KPIを単価から「1リクエスト/1タスクあたりの完了コスト」に置き換えるべき局面です。
ECやSaaSで生成AI機能を組み込んでいる事業では、推論レベルの設計が直接利益率に響きます。Astraはlowでも旧世代の最上位を超えたという事実は、「難しい処理は最上位レベルで」という運用を見直す根拠になります。バナー生成、商品説明文、図表出力といった大量・低単価の処理はlowやmediumに落とし、maxは仕上がりが要件になる工程だけに絞る。その切り分けだけで原価が動きます。
受託開発・SIerには別の含意があります。Astraはmax未満だと脚の配置のような構造的精度が安定しません。つまり「安いレベルで十分か」は用途ごとに実測しないと判断できない。顧客提案の前に、自社の代表タスクでレベル別の品質とコストを測る簡易ベンチマークを内製しておくことが、そのまま提案の差別化材料になります。ベンダーの公表スペックだけで見積もる時代は終わりつつあります。