何が起きているか
リオネル・メッシとクリスティアーノ・ロナウドが、広告塔から「スタートアップ投資家」へと役割を広げています。メッシは2022年10月、Vikiの創業者ラズミグ・ホバギミアン氏とサンフランシスコに投資会社Play Time HoldCoを設立し、当初約2億ドル規模を目指すと報じられました。ポートフォリオにはFieldAI、Fish Audio、World Labs、Perceptron、SuperAnnotateといったAI関連企業が並びます。さらにファンタジーサッカーのSorareや、盟友アグエロが率いるKRÜ Esportsにも出資。2023年のインテル・マイアミ移籍では、MLS史上異例のクラブ持分を報酬に組み込みました。同クラブの評価額は2026年2月時点でSporticoによれば14.5億ドル、前年比22%増でMLS史上最高です。
ロナウドの投資対象はほぼヘルステック一択です。長年愛用してきたウェアラブルWhoopに2024年5月に出資。2026年2月にはHerbalife傘下のHBL Pro2col Softwareに750万ドルで10%を取得し、その1カ月後にはHerbalifeが最大1.5億ドルでロンドンのAIパーソナライズドサプリ企業Bioniqを買収――ロナウドはBioniqの初期投資家でした。2025年6月にはサウジのアル・ナスルの株式5%(約5,000万ポンド)も獲得しています。
対照的にモハメド・サラーは、英国の登記情報を見る限りAdidas、Pepsi、Vodafone Egyptといった広告契約と不動産、そしてMohamed Salah Charitable Foundationを通じた慈善活動が中心です。
なぜ重要か
ドバイのArchers Valuation and Advisoryのカムラーン・カーン氏が指摘するように、スポンサー契約が現役期の収入を最大化する仕組みなのに対し、エクイティは引退後のキャピタルゲインと配当を狙う構造です。VCやスタートアップにとってもスター選手は「グローバルなリーチと信用、流通網」を一度に得られる稀有な存在であり、両者の利害が一致した結果、資本市場と有名人の距離が急速に縮まっています。
分岐点は「ブランド適合」
ロナウドが健康・長寿ブランドと一貫させ、メッシがAIとエンタメを横断するのは、単なる好みの差ではありません。自身のブランドと投資領域を一致させれば、広告塔としての価値と株式価値が相互に増幅します。サラーの「保守路線」は安全ですが、複利で富を伸ばす仕組みからは距離があります。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本のスポンサー依存型ビジネスに突きつけられた問いは重い。国内の大手広告主や代理店は、いまだアスリート起用を「露出量×契約金」で設計しがちですが、メッシ・インテル・マイアミ型の「持分を渡す代わりに全期間コミットを引き出す」モデルが標準化すれば、契約構造の再設計を迫られます。特にDtoCブランド、ヘルステックSaaS、フィットネスアプリを展開する事業会社の役員は、著名人を「広告費」ではなく「資本政策」の一部として扱う選択肢を今から検討すべきです。既存株主の希薄化と引き換えに、グローバル流通と信用を一気に獲得できるからです。
また、Whoopのようにアスリートを「長年のユーザー」から「投資家兼アンバサダー」に昇格させる設計は、日本のSaaSでも再現可能。受託開発企業も、有名クライアントに完全成果報酬+ワラントを提示する提案は差別化になります。逆に、自社ブランドとの整合性を欠いたまま話題性だけで有名人を起用すれば、Herbalife×ロナウドのような十年超の一貫性には勝てません。