何が起きたか

Waze が AI を軸にした機能群を追加しました。中身は大きく4つです。

1つ目は、Gemini を使った会話型の目的地検索です。検索欄の音声アイコンをタップし、「今開いているコーヒーショップを探して」「Grand Mall の近くの駐車場を探して」「近くで一番安いガソリンスタンドを探して」といった具合に話しかけると、Waze が候補リストを返します。これはグローバルのベータコミュニティ向けに、Android と iOS で提供が始まっています。

2つ目は、パーソナライズされたナビゲーションです。ユーザーの移動履歴と、その都市の交通パターンの理解にもとづいて経路を提案します。たとえば下道より高速道路を好むユーザーには、高速を使う経路が先に出るようになります。不要なら別経路を選ぶか、設定でパーソナライズを切ることもできます。こちらは Android・iOS でグローバル展開中です。

3つ目が Motorcycle mode。二輪特有の抜け道や通行規制を AI で加味して経路と到着予測時刻の精度を上げ、路面の穴・段差・かさ上げされた横断歩道・路肩の途切れ・狭い橋といった危険箇所を表示します。提供はアルゼンチン、ブラジル、コロンビア、マレーシア、メキシコ、ペルー、フィリピンの7カ国から。今後さらに国を増やすとしています。

4つ目は運転中の情報入力と出力の調整です。Waze はすでに渋滞などのインシデントを自然な話し言葉で報告できましたが、今回は地図情報そのものの修正提案も同じやり方でできるようになりました。「ここは道路が閉鎖されている」と話せば、その内容が地域の地図編集者に送られます。逆に案内をうるさく感じる人向けには、音声プロンプトの回数を減らし一つひとつを短くする「less chatty」モードが入りました。危険や曲がる指示の通知は残りますが、頻度が下がります。

なぜ重要か

個々の機能は地味に見えますが、並べると Google の意図がはっきりします。Waze を「行き先を入力する道具」から「行き先を相談する相手」に変えようとしているのです。

「近くで一番安いガソリンスタンド」という問いは、従来なら検索エンジンか比較サイトの仕事でした。それがナビアプリの中で完結するということは、価格比較・営業時間・在庫といった情報のクエリが、ブラウザではなく運転中の音声インターフェースに移り始めるということです。Gemini を各プロダクトに横断投入する Google の全社方針が、地図という「意図が最も明確なタッチポイント」に降りてきた形で、Apple Maps などの競合に対する差別化にもなります。

Motorcycle mode の場所が語ること

注目すべきは投入先の7カ国です。ブラジル、メキシコ、コロンビア、ペルー、アルゼンチン、マレーシア、フィリピン。いずれも二輪が生活と物流のインフラになっている市場です。フードデリバリーや小口配送の担い手が二輪であるこれらの国では、二輪の到着予測精度と路面の危険情報は、そのまま配送品質と事故率に直結します。

先進国から出すのが定石の AI 機能を、あえて新興国の二輪から始めた。これは「AI 機能はまず英語圏の高価格帯ユーザーに」という思い込みが崩れつつあることの一例です。ユースケースが尖っている市場のほうが、AI の価値を証明しやすい。

「less chatty」という設計思想

もう一つ見落とせないのが less chatty モードです。AI 機能を足すニュースと同じリリースで、「話しかけてこない」オプションを同格に並べている。ユーザーが求めているのは AI の存在感ではなく成果であり、静かさもまた機能である──この割り切りは、AI 機能を実装するあらゆるプロダクトに効く示唆です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業への含意は3つあります。

第一に、EC・店舗事業者。「今開いている店」「一番安いガソリン」といった問いがナビアプリ内で処理されるということは、営業時間・価格・在庫といった構造化データを持たない事業者は、運転中の顧客の選択肢から消えるということです。SEO の次の戦場は、地図・音声アシスタントに読まれる形でのデータ整備です。役員は「自社の店舗情報は Gemini に正しく答えられるか」を今期の KPI に入れるべきです。

第二に、SaaS・受託開発。パーソナライズ経路と less chatty モードが同時に出た意味は重い。AI 機能は「常時提案する」ではなく「学習しつつ、必要な時だけ黙る」設計が正解になりつつあります。自社プロダクトの AI 機能に「オフにする導線」と「静かなモード」があるか、点検してください。オフにできない AI は解約理由になります。

第三に、物流・配送を持つ企業。Motorcycle mode が7カ国の二輪市場から始まった事実は、東南アジア・中南米での配送最適化に AI が実装フェーズに入ったことを示します。現地展開している日本企業は、自社の配送 ETA が二輪前提で計算されているか、確認する価値があります。

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