何が起きたか

VentureBeat Pulse Researchが2026年6月に従業員100人以上の企業101社を対象に実施した調査で、AIエージェントの「オーケストレーション基盤」——複数のAIエージェントに手順を割り当て、ツール連携や多段階の処理を管理する土台——の選定実態が明らかになりました。

最大の発見は集約の進行です。AnthropicのClaudeが主要基盤として40%を占め、Microsoft(18%)、OpenAI(13%)を大きく引き離しました。Anthropic・Microsoft・OpenAI・Google・Amazonのモデル系5社を合わせると、導入の約8割(101社中81社)に達します。オープンなフレームワーク(LangChain/LangGraph)は6%、社内独自構築は5%にとどまりました。

「オーケストレーション」と実態のギャップ

しかし、掲げる理想と現実には隔たりがあります。71%の企業が「稼働中エージェントのうち、真に多段階でオーケストレーションされているのは4分の1以下」と回答し、半数を超えたと答えたのはわずか10%。つまり多くの「エージェント」は、実際には単発プロンプトのチャットボットに名前を付け替えたものです。この「チャットボットの罠」は規模で偏りがあり、小規模企業の77%が該当する一方、大企業では62%でした。

なぜClaudeが選ばれるのか

選定要因の首位は「モデル重力(model gravity)」——最先端の基盤モデルとネイティブに整合していること(21%)でした。以下、モデル/ツールを横断できる柔軟性(17%)、開発のしやすさ(17%)、セキュリティと権限管理(14%)と続き、性能・遅延・メモリは最下位の4%。基盤モデルそのものの強さが、そのまま基盤選びを引き寄せている構図です。

成功の判断軸も一貫しています。「タスク完遂の信頼性」(32%)と「多段階ワークフロー管理」(28%)の2つで合計59%(60社)を占め、開発者生産性(17%)や利用者体験(9%)を上回りました。企業が求めているのは、賢い応答よりも「壊れずに最後までやり切る」ことです。

コスト制御という穴

見過ごせないのが財務ガバナンスの遅れです。27%の企業は、暴走したエージェントを請求書が届く前にリアルタイムで止める手段を持っていません。投資はエージェントのワークフロー用ツール(34%)、次いでセキュリティ・権限管理(25%)に向かう一方、コストの蛇口を締める仕組みは後回しになっています。

将来像は「集約=丸投げ」ではありません。2026年末までに51%が「プロバイダー純正+外部オーケストレーションのハイブリッド制御」を見込み、プロバイダー管理サービスに制御を委ねると答えたのは6%のみ。最も恐れるリスクはベンダーロックイン(35%)で、96%が今後1年以内にオーケストレーションの方針を変更する予定だと答えています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業、とりわけSaaSベンダーと受託開発会社にとって、この調査は「デモと本番の断層」を突きつけます。71%が単発チャットボット止まりという事実は、多くの導入プロジェクトが実は自動化されていないことの裏返しです。SaaS事業者は「AIエージェント搭載」を謳う前に、タスク完遂の信頼性(顧客が唯一評価する32%の指標)を示せるかを自問すべきです。

受託開発では、モデル重力を逆手に取れます。Claudeが4割で先行する今、Anthropic基盤の多段階ワークフロー構築力は差別化になり得ますが、35%が恐れるロックインを踏まえ、51%が選ぶハイブリッド制御——特定プロバイダーに依存しすぎない設計——を提案軸にすべきです。

経営者が今すぐ動くべきは財務ガバナンスです。27%が暴走エージェントを止められない現状は、日本企業がPoCから本番へ進む際の最大の落とし穴。稟議では「導入」より先に、リアルタイムの利用上限とコスト遮断の仕組みを要件に入れてください。96%が1年内に方針変更する市場では、可搬性を確保しておくことが次の乗り換えコストを左右します。