何が起きたか

VentureBeat Researchは2026年6月、VB Pulseプログラムの下でエージェント技術スタックの各層を対象に5本の並行調査を実施しました。回答者は従業員100人以上の組織に所属する計573人で、うち81%が自社のAI購買を推奨・決定する立場にあります。

中心的な発見はシンプルです。企業は「エージェントを管理する統制が整う前に、承知の上でエージェントを本番投入し、今になって後追いで整備している」。測定した5つの統制層(ID=どのエージェントが誰の権限で何をできるか、評価=成果物が良いかの判定、コスト計測=各エージェントの運用コスト把握、コンテキスト層=業務データや定義の供給、オーケストレーション=複数ステップの協調)のいずれでも、57~68%が12カ月以内に乗り換え・追加を計画し、およそ3分の1は四半期内に動くと答えています。

そもそも「エージェント」の実態が薄い

注意すべきは、導入済みの「エージェント」の多くが実はラベルを付けたチャットボットだという点です。71%の企業が「自律的に複数ステップの作業を完遂できるエージェントは全体の4分の1以下」と回答し、真のエージェントが多数派だと答えたのはわずか10%でした。統制を語る以前に、自律実行できる主体はまだ少数派なのです。

なぜ重要か——穴が事故として顕在化している

統制の遅れは抽象的なリスクではなく、実害として出ています。

  • 評価(Evals)の空洞化:3分の2の企業が、人間のレビューなしに自動評価の結果だけでエージェントに本番へコード/システム変更を反映させている、あるいは12カ月以内にそう設計しつつあります。ところが評価を全面的に信頼しているのはわずか5%。半数の企業が、内部評価を通過したエージェントを出荷した後、この1年で顧客に影響する障害を起こしています。
  • ID共有と事故率:69%が少なくとも一部のエージェントに認証情報を共有させています(複数エージェントが1つのAPIキーやサービスアカウントを使う)。認証情報共有を認める組織のセキュリティ事故・ヒヤリハット発生率は63.5%(74社中47社)で、全エージェントに個別のスコープ付きIDを与える企業の40.9%(22社中9社)を上回りました。
  • コンピュートの無駄:自社GPUを運用する企業の8割超が稼働率50%以下と回答し、AI計算コストとリターンを厳密に追跡しているのは44%にとどまります。
  • コンテキスト不足による誤答:57%が過去6カ月に「自信満々の誤った回答」を、自社の欠落・不整合な業務コンテキスト(誤った指標、古い定義、不在の文書)に起因すると突き止め、その多くが複数回経験しています。

どの層も王者不在

この5層にはまだ確固たる勝者がおらず、現状のデフォルトは大手AIプラットフォームに付属する組み込みツールです。乗り換え意向が最も高いのはオーケストレーションで、68%が12カ月以内に採用・追加・置き換えを計画し、34%は四半期内に動くとしています。ただし今回の調査は、資金がプラットフォームの組み込みツールへ向かうのか、それを挑む専業ベンダーへ向かうのかまでは尋ねていません。

(本記事は自己選択サンプルを含み、一部は方向性として読むべき点に留意が必要です。)

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本のEC・SaaS・受託開発の各社にとって、この調査は「PoCで動いたエージェントを、統制なしに本番へ載せる」危うさを数字で突きつけます。特に受託開発では、クライアントのAPIキーを複数エージェントで使い回す設計が事故率を63.5%まで押し上げる——見積り段階で「エージェントごとにスコープ付きIDを発行する」工数を明示的に積むことが、そのまま提案の差別化と賠償リスク回避になります。SaaS事業者は、自動評価だけで本番リリースする運用を急ぐ前に、評価結果を実際の本番アウトカムと突き合わせる仕組みを持つべきです。半数が「評価通過後に顧客障害」を起こしている以上、人間レビューの撤去は評価の実績検証後に限るのが経営判断として妥当です。ECなら、指標の定義や商品データの整合を整える前にエージェントを拡大すると、57%が経験した「自信満々の誤答」を顧客対応で踏みます。役員が今すべきは、GPU増設やベンダー追加より先に、稼働率とワークロード単位のコスト、そして業務コンテキストの棚卸しを実行に移すことです。