何が起きているのか
NDSは、DOGE型の暫定組織として大統領直属で設置され、US Web Design System(USWDS)の更新と27,000の.govサイト刷新を3年で担う任務を負いました。ただし、政府サイトを従来支えてきた18Fは解体され、US Digital ServiceはDOGEに再編、USWDSチームは常勤1人にまで縮小されています。2023年半ば時点でUSWDS標準を採用していた.govは30%にとどまっており、そもそも土台が脆弱な状態からのスタートです。
実績と混乱
これまでにNDSが立ち上げた数十のサイトの多くは、サインアップフォーム1枚のみの構成です。live.gov、onlyfarms.gov、aliens.gov、why.govといった新規ドメインは既存サイトへのリダイレクトにとどまり、米国建国250周年記念の250.govに至っては.govではなく.orgに飛びます。ndstudio.gov上では一時、$47のMAHA限定ポスターやRFK Jr.のサイン入り$400コレクターズ版を扱う「ストア」が出現し、White Houseは「購入ボタンがないため実際には販売していなかった」と釈明しました。
AI生成と品質問題
TrumpRX.govでは、AIが生成した「6本指の子どもが星のない米国旗に向かって走る」画像が嘲笑を集めました。CIO.govは「社内AIエージェントシステムでエンドツーエンドに近い形で生成した最初の展開の一つ」と担当者がXで発言した後、LinkedInで基本的なアクセシビリティを満たさないと批判され取り下げられ、現在はcouncils.govへリダイレクトされています。批評家は、単一スタイルのテキスト1枚に約3MBのコードを積むという「編集系特集や地図UIなみの重さ」を指摘し、ADA準拠を欠くと評価しています。
privacyと権限の問題
The Guardianの調査では、passport.govやvote.govなど法的に他機関に割り当てられているサービスの版をNDSが構築していたことが確認されました。NDSのvote.gov案では、有権者はLogin.gov経由で本人確認し、DHSのデータベースで市民権を照合させられます。しかし、機微データをWhite Houseに集約することのprivacy影響評価は行われておらず、vote.govを所管する議会指定委員会は正式参加を決めていません。加えて、ndstudio.gov・trumprx.gov・realfood.gov・trumpaccounts.govの4サイトには、privacyツールを回避するよう設定された商用訪問者追跡ソフトが混入し、1974年Privacy Actおよび2002年E-Government Actが求める公開届出も欠いていました。Guardianの問い合わせ後、トラッカーは撤去された模様です。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
日本企業の経営者・事業責任者にとって、これは「他人事の海外行政ニュース」ではなく、AI主導の内製Web刷新プロジェクトが陥る失敗パターンの生標本です。特に、SaaS事業者・大手ECのDX推進部門・行政向け受託SIerは、次の3点を自社に置き換えて読むべきです。第一に、既存の技術資産(NDSにおけるUSWDSや18F)を「旧体制」として切り捨てた結果、標準化・アクセシビリティ・privacy compliance知見が同時に消え、AIエージェント任せの生成が3MB級の低品質ページを量産した点。日本でも「AIで内製化・コスト圧縮」を掲げる案件で同じ穴に落ちる可能性があります。第二に、privacy影響評価を飛ばし商用トラッカーを紛れ込ませた設計は、日本の改正個人情報保護法・Cookie規制の観点で即アウトです。BtoC事業のCMOは、AIツール導入時のprivacy by designをKPI化すべきです。第三に、法的所管を跨いだ「勝手に作る」姿勢は、行政向け受託・グループ会社間システム統合で頻発する越権リスクの縮図であり、契約と権限設計が甘い日本のSIerは他山の石とすべきです。