何が起きたか

ロードはマドリードで開催されたReal Cool Festivalのセット中に、AIグラスへの批判を口にしました。ブランド名は明示していませんが、「誰かがサングラスをかけているのか、それともあの忌々しいアレをかけているのか分からない」と述べ、「記録に残しておきたい。あのグラスなんてクソくらえ。買うな。セクシーじゃない」と続けています。観客に「something real(本物の何か)」に参加してくれたことへの感謝を伝えたうえで、何が本物で何がそうでないかを見分けるのがますます難しくなっている、という趣旨の発言もしました。様子はSNSに投稿された動画で拡散しています。

発言が刺さるのは、フェスのスポンサーがRay-Banだからです。Ray-BanはMetaと組んでAIスマートグラスを展開しており、Stereogumによれば、ロードの後にステージに立ったのはRay-Ban Meta AIのアンバサダーを務めるBlackpinkのJennieでした。JennieはInstagramの広告キャンペーンに起用され、Real Coolのセット間に上映された映像にも登場しています。同じフェスの同じ夜に、批判とマーケティングが数十分差で並んだことになります。

なぜ重要か

これは「有名人が新しいガジェットを嫌った」という話ではありません。スマートグラスの本質的な問題は、装着者ではなく周囲の人間が同意していないという点にあります。スマートフォンでの撮影は、構えるという動作が周囲への合図になっていました。グラスはその合図を消します。ロードの「サングラスなのか、それともアレなのか分からない」という言葉は、その一点を正確に突いています。

Metaはスマートグラスをめぐる批判が強まるなかでも、常時録画する「super sensing」グラスの投入を計画していると報じられています。つまり、市場側は「合図の消滅」を仕様として深める方向に進んでいる。ライブ会場、飲食店、オフィス、病院といった「その場にいる全員の合意」が前提の空間で、摩擦が構造的に増えていくということです。

見落とされがちな論点

もうひとつ重要なのは、ロードが技術的リスクではなく「セクシーじゃない」という美意識の語彙で否定した点です。プライバシー批判は規制と設計で緩和できますが、「ダサい」は緩和が効きません。Google Glassを葬ったのも法律ではなく社会的な嘲笑でした。アンバサダー起用によるカルチャー側からの正当化と、同じカルチャーの内側からの拒絶が、いま同じ舞台で衝突しています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本企業にとっての示唆は3点あります。

第一に、スマートグラスを社内・店舗に導入検討している企業(小売・物流・製造の現場支援、保険や不動産の営業同行など)は、投資対効果の前に「相手の同意」をどう運用に組み込むかを先に設計すべきです。ロード発言が示すのは、機能ではなく装着そのものが場のムードを壊すという事実で、これはROI計算に載りません。顧客接点で使う場合、着用ポリシーと事前告知の文言をセットで用意しない限り、現場の一件のクレームで全社導入が止まります。

第二に、イベント・ライブ・展示会を運営する事業者は、スポンサーシップの構造リスクを直視すべきです。Real Coolでは、スポンサー製品を出演者が公然と否定するという事態が起きました。ブランドスポンサーを取る側も出す側も、出演者・登壇者の価値観と製品の相性を、契約前のチェック項目に入れる段階に来ています。

第三に、AI製品を作るSaaS・受託開発企業にとって、これは「プライバシー配慮」ではなく「感情設計」の問題です。ユーザーではなく、ユーザーの周囲にいる人が不快になる製品は、機能で勝っても普及しません。プロダクト会議に「これを使っている人を、隣の人はどう見るか」という問いを常設することを勧めます。

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