何が起きたか

Lightspeed Venture Partnersが、シード投資家であり同時にソーシャルメディアのクリエイターでもあるクレア・ザウ氏を採用しました。ザウ氏はInstagramとTikTokで大きなフォロワーを抱えており、Lightspeedでは投資案件のソーシング(発掘)に加え、同社の新番組「Lightwork」をCMOのジョシュ・マチズ氏と共同でホストします。

TechCrunchのポッドキャスト「Equity」の回では、ドミニク=マドリ・デイビス氏がザウ氏とマチズ氏を迎え、「クリエイター投資家」がベンチャーキャピタルにおける本物の職種になりつつあるのか、それとも各社がまだ手探りで試している段階なのかを議論しています。

なぜ重要か

この動きは単発の人事ではありません。ベンチャー各社は、小切手を切るよりずっと前の段階で、次世代の創業者との信頼関係を築くためにクリエイターを起用し始めています。a16zがエリック・トーレンバーグ氏のポッドキャスト「Turpentine」を買収し、OpenAIが「TBPN」を買収したのも同じ潮流の上にあります。

ポイントは「広告」ではなく「先回り」です。従来、VCのブランディングはポートフォリオの実績とネットワークで語られてきました。しかし創業者の情報接触点がSNSと音声メディアに移った結果、資金調達を検討する半年前、あるいは会社を作る前から、創業者はすでに特定のVCの声を毎週聞いている——その状態を作れるかどうかが、案件へのアクセス競争を左右し始めています。

「投資家兼ホスト」という設計の含意

注目すべきは、ザウ氏の役割がメディア専任ではなく、ソーシングと番組ホストの両方である点です。これは、コンテンツ制作を広報部門の下請けに置くのではなく、フロントの投資業務そのものに統合する設計を意味します。番組で話すことがそのままディールフローの入り口になり、逆に投資検討で得た知見がコンテンツの質を上げる。マチズ氏がCMOとして共同ホストに入っていることも、マーケティング機能が「発信の後工程」ではなく「案件獲得の前工程」として位置づけられていることを示しています。

一方で、この形が定着するかはまだ未知数です。Equityの議論でも問いは「本物の職種になったのか、各社がまだ模索中なのか」という形で立てられており、答えは出ていません。個人のフォロワーに依存する構造は、その人物が退社した瞬間に資産が持ち出されるリスクを常に抱えています。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

日本の事業会社にとって、この話は「VC業界のトレンド」で片づけられません。構造は採用市場とBtoB営業にそのまま移植できます。

SaaSや受託開発企業の経営者に効くのは「意思決定者が接触する半年前に、すでに声を聞かれている状態を作る」という発想です。RFPが出てから提案するのでは価格競争に落ちますが、その前段でCTOや情シス責任者が定期的に聞く発信源になっていれば、指名相談の入り口を取れます。重要なのは、Lightspeedがこれを広報部門ではなくソーシング担当者に持たせた点で、日本企業がやりがちな「オウンドメディアをマーケ部門の追加業務にする」設計とは逆です。発信は現場の事業責任者・エンジニアが担い、そこから来た商談を評価指標に組み込むべきです。

EC事業者にとっては、TikTok・Instagram発の個人ブランドが調達側にまで入り込んできた事実が示唆的です。クリエイター起用を「広告出稿」として扱う限り効果は摩耗します。

ただしリスクも直視すべきです。フォロワーは個人資産であり、退職とともに消えます。導入するなら、複数人体制と番組・チャネル側にブランドを残す設計を初期から組み込んでください。

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