何が起きたか

Simon Willison氏は、2022年8月5日にGPT-3の補完(「アライグマのチームが強盗をするゲームの詳細な製品説明を書け」)とDALL-Eのコンセプトアートで作った架空ゲームの構想を、4年後の2026年8月5日にClaude Fable 5で実物にしました。作業環境はClaude Code for web、指示は電話のメモアプリで書いた1本のプロンプトと当時の画像2枚のみ。プロジェクト全体がモバイルで完結しています。

プロンプトの要件は「index.htmlをエントリポイントにしたブラウザ3Dゲーム」「モバイルのタッチ操作対応」「OpenAI APIキーとgpt-image-2でテクスチャを生成」「これ以上の設計判断を私に聞かず自律的に進めろ」「プレビューできるよう頻繁にコミット・プッシュ」「notes.mdに作業ログを追記」。技術選定は一切指定せず、氏は過去の経験からThree.jsが選ばれると予想し、実際その通りになりました。

成果は、マスクをつけたアライグマがゴミ箱のアジトから月夜の袋小路に出て、コイン・宝石・指輪・ドーナツ・魚を背中に積み上げ(積むほど遅くなる)、夜明け前に持ち帰るゲーム。夜1は懐中電灯を振る警備員1人、夜2は2人、夜3からは視線を無視して匂いで追う番犬が加わります。犬は12ユニットで匂いを察知し、17ユニット離すと諦める。パトカーのヘッドライト、窓から覗く住民、放置した戦利品を狙うカモメ、6秒間のスピードFRENZYを発動するピザ、120点の金色テレビ。ランクはTRASH PANDA、CAT BURGLAR、MASTER OF DISGUISEの3段階で、ベスト記録はlocalStorageに保存されます。

なぜ重要か

注目すべきは完成品より工程です。Fableは自前でgen_textures.pyを書いてgpt-image-2で7枚の地面・壁テクスチャとタイトル画を生成し、目視で確認したうえで静的アセットとしてコミット。結果として公開版のゲームはAPIを一切呼びません。Three.jsはCDNではなくvendoring、サウンドトラックはWebAudioの手続き生成でジャズのベースラインから効果音まで音声ファイルゼロ。番犬も手続き的なlow-polyメッシュ(makeDog()で胴・頭・鼻・耳・尻尾・トゲ付き首輪・可動する4本脚)として組み立てられています。

テストが本当のバグを捕まえた

最も実務的な示唆はここです。Claudeはプリインストールされたchromiumをplaywrightで操作し、デスクトップ・縦持ちスマホ・横持ちスマホの3ビューポートでスクリーンショットを撮りながら自己検証しました。その過程で、モバイル幅でアライグマが見えなくなる不具合を自分で発見して修正。さらに実機で本当のバグを2件検出しています。ひとつはcssStyle一括代入がThree.jsのインラインサイズ指定を上書きし、キャンバスが実機で2倍サイズになる問題(デスクトップのDPR=1テストでは見えない)。もうひとつは勝利画面の星評価divがタイトル画面の全画面.starsのCSSを継承し、「次の夜へ」ボタンのタップを吸い込む問題。いずれも修正のうえ回帰テスト済みです。番犬の検証では、プレイヤーを犬の近くにテレポートさせてshot-dog.pngを撮るというテストまで自作しています。

つまり、コードを書くことより「動かして見て直す」ループが自律で回った点が新しい。もちろん万能ではなく、氏自身、ゴミ箱用に生成したmetal.jpgが正しく適用されているか疑わしいこと、タイトル画像がデスクトップで上三分の一に切り取られてアライグマが写らないことを認めています。

プレビューの実務Tips

氏はClaude Code for webの出力を確認する手順も公開しています。github.com/newでリポジトリを作り、Claude iPhoneアプリ・デスクトップアプリまたはclaude.ai/codeでセッションを開始、まずindex.htmlを早めにコミットさせ、Settings→Pagesで「Deploy from a branch」を選んでClaudeのブランチを指定して保存。以後はプッシュから約30秒で yourname.github.io/リポジトリ名/ に反映されます。ただしプライベートリポジトリでもPagesの公開内容はリポジトリ名を推測できれば誰でも閲覧できる点は要注意です。

💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか

経営層が読むべきは「アライグマ」ではなく「検証が自動化された」という一点です。従来のAIコーディングは生成物の妥当性確認が人間側のボトルネックでした。今回はPlaywrightで3ビューポートを回し、実機でしか出ないキャンバス2倍問題やCSS継承によるタップ吸い込みという、レビューでは見落としやすい2件を機械が捕まえています。受託開発・SIerにとっては、実装工数より「動作確認・回帰テスト工数」が先に溶ける可能性を意味し、人月見積りの前提が崩れます。EC・SaaS事業者なら、キャンペーンLPやミニゲーム、社内ツールのプロトタイプを外注せず1日で出す判断が現実的になりました。もうひとつの実務的な示唆が、ClaudeにOpenAI APIキーを渡してgpt-image-2で素材を作らせ、生成物を静的アセットとしてコミットさせた設計です。運用時にAPIを呼ばないため、ランニングコストも障害点も増えません。自社でAIエージェントに外部APIキーを持たせる際の権限設計・キー分離・生成物の権利確認は、情シスと法務が今すぐ詰めるべき論点です。加えてGitHub Pagesはプライベートリポジトリでも��開内容が閲覧可能な点を、社内ガイドラインに明記しておくべきでしょう。

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