何が起きたか
4年前の2022年8月5日、GPT-3に「アライグマのチームが強盗をするゲームの詳細な商品説明を書け」と指示して生成した企画文と、DALL-Eの「アライグマのチームが強盗をするゲームのスクリーンショット」というプロンプトで作った“コンセプトアート”。当時は文章と画像だけで終わっていたこのネタを、Simon Willison氏が4周年に「そのまま動くゲームにできるか」で再挑戦しました。
使ったのはClaude Fable 5をClaude Code for web上で動かす構成。プロンプトはスマホのメモアプリで書き、元ツイートの画像2枚を添付。要求は「index.htmlを入口にした3Dブラウザゲーム」「モバイル対応(タッチ操作・小画面)」「渡すOpenAI APIキーとgpt-image-2でテクスチャを生成」「これ以上の設計判断は聞かずに独立して進めろ」「頻繁にコミット・プッシュしろ」「notes.mdに作業ログを追記しろ」だけ。ライブラリの指定はしておらず、過去の実験からThree.jsを選ぶだろうと踏んだ通りになりました。
完成物は、覆面をしたアライグマがゴミ箱のアジトから月夜の袋小路に出て、コイン・宝石・指輪・ドーナツ・魚を集め、夜明け前に持ち帰るゲーム。戦利品は背中に積み上がって視覚的に見え、その分だけ移動が遅くなります。夜1は懐中電灯を振る警備員1人、夜2は2人、夜3からは匂いで追う番犬が加わる。パトカーのヘッドライト、窓から覗く住人、放置した戦利品を急降下で奪うカモメ、6秒間のスピードFRENZYを発動するピザ、120点の黄金テレビ。評価はTRASH PANDA⭐からMASTER OF DISGUISE⭐⭐⭐までの3段階で、ベスト記録はlocalStorageに保存されます。
なぜ重要か
注目すべきは「ゲームができた」ことより、人間の介在ゼロで自己完結した開発ループが回った点です。Fableはindex.htmlから着手し、Three.jsをCDN依存ではなくリポジトリに同梱。テクスチャ生成用のgen_textures.pyを自分で書き、生成結果を目視確認し、ゴミ箱用にmetal.jpgを作る。プリインストールのChromiumをPlaywrightで動かしてスモークテストを行い、デスクトップ幅とモバイル幅で自分でスクリーンショットを撮り、モバイル幅でアライグマが見えないバグを自力で発見して直しています。
テストが捕まえた2件は、レビューでも見落としがちな種類のものでした。1つは実機スマホでcanvasが2倍サイズで描画される不具合——cssTextへの代入がThree.jsのインラインサイズ指定を消していたためで、DPR=1のデスクトップ検証では表面化しません。もう1つは勝利画面の星評価divがタイトル画面の全画面.starsのCSSを継承し、「次の夜へ」ボタンのタップを吸ってしまう問題。いずれも修正後、取得・持ち帰り・追跡と捕縛・夜明け・夜の進行・失敗とリトライまで回帰テストが張られています。
具体的な論点
プレビュー手段の工夫も実務的です。Claude Code for webが作業中の成果をGitHub Pagesで見る——リポジトリを作り、まずindex.htmlを素早くコミットさせ、Settings→PagesでDeploy from a branchを選んでClaudeのブランチ(今回はclaude/3d-raccoon-heist-game-50n293)を指定する。プッシュから約30秒で公開URLに反映されます。プライベートリポジトリでも動きますが、リポジトリ名を推測されれば公開内容は誰でも見られる点は注意が必要です。
OpenAIキーの提供が能力の穴を埋めたのも示唆的です。7枚の地面・壁テクスチャとタイトル画面のキーアートはgpt-image-2で生成し、静的アセットとしてコミット済み。デプロイされたゲームは実行時にAPIを一切叩きません。低ポリのマスク姿のアライグマ、金貨、倒れたゴミ箱、満月とホタルまで指定したキーアートのプロンプトは、Fableが画像生成器への指示を得意とすることを示しています(ただしデスクトップでは上3分の1しか表示されず、肝心のアライグマが切れる詰めの甘さも残りました)。サウンドは音声ファイルゼロで、WebAudioによる手続き的なジャズBGMと効果音です。
💼 事業会社視点:これは自社にどう効くか
経営層が読むべきは「アライグマのゲームが作れた」ではなく、仕様の粒度と検証の自動化がここまで来たという一点です。今回、人間が与えたのは要求と制約(入口ファイル、モバイル対応、独立進行、コミット頻度、ログ)だけで、技術選定・アセット生成・バグ発見・回帰テストはすべてモデル側で完結しました。受託開発・SIerにとっては、これまで工数として請求してきた「プロトタイプ作成」「動作確認」「実機での表示崩れ修正」の一部が、単価の説明を求められる領域に入ったことを意味します。
日本企業の事業責任者が今すぐ動くべきは3点。第一に、社内の企画・営業・マーケが自分でプロトタイプを出せる環境(Claude Code for web+GitHub Pagesのようなプレビュー導線)を、情シスの許可プロセスごと整備すること。今回の事例は全工程がスマホで完結しています。第二に、画像生成APIキーのような「能力の��を埋める外部キー」をどう安全に配るかのルール整備。第三に、プライベートリポジトリでもPages公開分は名前を推測されれば読まれるという事実が示す通り、生成AIの作業ブランチと公開範囲を扱う社内規程の見直しです。ECやSaaSの現場なら、キャンペーン用のミニゲームやインタラクティブLPは、外注先に見積を取る前に一度自社で試作してから交渉するのが合理的になりました。